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東海テレビ 2018年12月25日 1900~2055

2007年に起こった強盗殺人、死体遺棄事件。全く見も知らぬ女性を襲った3人組の男たちが闇サイトで 知り合ったことから始まった、被害者や家族にとっては不条理以外の何ものでもない事件。
個人的にも、いまだに忘れられない事件で、それは、この理不尽で残虐な犯罪を許せないという怒り。
また、過去の判決に基ずく量刑の基準や決定という司法への疑問や不満。そして死刑が当然だという私の気持ちと、
一方で、今も死刑を続けている国が先進国では少なくなりつつあるという問題である。
憎しみや怒りに対する共感はあるが、罰では罪は減らないことも確かだと思う。感情は理解できるが、理論は納得
できない自分がいる。
東海テレビのHPによれば、「ドキュメンタリーでは表現できないことがある。それは、事件前の母と娘の物語」
この企画意図はよく理解できる。テレビというメディアの特性として速報性や衝撃の強さを伝えるのは優れている。
しかし、複雑な事件の背景や問題を解説したり、掘り下げるのは苦手である。

さて、二人の優れた制作者の作品なので楽しみにしていた。そして番組として、ドキュメンタリードラマという
表現を選んだことが成功しているかといえばやや疑問である。
最初にまず事件の概要を見せるべきではないか。10年以上前の事件を知らない世代や知っている視聴者にも
復習の意味も含めて、悲しい事件を想起させてから、物語は始めた方が良かったと思う。
そこで最初に持ってきた母と娘の生活だが、ありふれた家庭の暖かさを描くのは難しいし、まして事件を知らない 視聴者を惹きつけるドラマとしては作りが弱いと思った。ヨーヨーのシーンは斎藤由貴ファンへのサービス精神だろうが、ここで見せるのはこのドラマとしては不適当ではないか。

過去のドキュメンタリーでタブーを恐れぬ取材に取り組んできた制作者のことだから、どこまで加害者へのアプローチを見せてくれるのかも楽しみだった。
加害者のドラマ部分はおそらく材料不足だったろうと思われ、家庭や周囲の愛に恵まれない環境であったことは伺えるがそれ以上ではない。今回の主軸は被害者の側なので過剰な期待だったか。ただ、主犯の父に対する諦めない取材アプローチは見事で、判決後の悲しい父の答えは加害者の家庭について考えさせてくれる。よく録ったと思う。

番組としての救いは被害者の母、磯谷富美子さんの現在の明るさ、人としての魅力、彼女を取り巻く仲間の存在だ。

難しいテーマをドキュメンタリードラマにして、ゴールデンで60周年特番として放送するという局の姿勢は立派で勇気ある編成、制作だと思う。
願わくばこの勇気が視聴者にテレビという媒体の面白さを再確認してもらえることを。

澤田健邦