真夜中のドキュメンタリー「ママががんになった」

  • 番組名:真夜中のドキュメンタリー「ママががんになった~子どもに伝えるとき~」
  • 放送局:中京テレビ
  • 放送日時:2019年3月9日(土)24時55分~

深夜の実験枠「土バラ」の中で3か月に1回位の頻度で制作しているドキュメンタリー。今回も1時間枠の中で2本立て。最初が「ママががんになった~子どもに伝えるとき~」、後半が「私が乳がんになったとき ニュースキャスターと家族の闘病記」。どちらもお母さんのがんという似た要素のものになっている。これはどういう風に見たらいいのだろうと少し思う。前半の内容を後半が始まると忘れてしまうだろうし、前半の内容が後半に引きづることにもなるだろうし、両方で1つのパッケージという事でもないだろうし。どちらも似た設定なのだが、訴えているポイントは少し違う。どちらも秀作なだけにインパクトが弱まったのではないかと心配する。

「ママががんになった~子どもに伝えるとき~」は当事者にとっては大変深刻なテーマである。がんになったショックもある中、成長過程のわが子がどう感じるか親は考えざるを得ない。年齢にもよるだろうし、環境にもよるし、子どもの個性にもよるだろう。いろいろな状況があり一概に正解はない。そうした状況を番組は「キャンサーペアレント」という子どもを持つがん患者が交流するインターネットのサイトでつながる仲間の会で力を合わせている人たちを通じて描かれていく。主人公となる当時42歳の女性には夫と当時9歳の娘がいる。気管支のがんと診断され夫と母にはすぐ伝えたが娘には「子どもがうつになるかもしれない」と思い伝えていなかった。隠し事をしている状態が堪らず「キャンサーペアレンツ」の集まりで「子どもにいつどうやって伝えるか?」と聞き、一人のお母さんから話を聞く。話してくれたお母さんは12歳のの娘をはじめ3人の子どもがいる。ステージ4と重篤なはずなのに明るく語るお母さん。病状を聞いた長女もショックは受けたが「大切なお母さんとの時間を過ごしたい、手伝いたい」と前向きだ。カメラが二つの家庭の中に入っていてもとても自然で穏やかな会話が続く。そして、夏休みに娘に病気の説明が書かれているインターネットページを見ながら病状を説明した。傷つくが応援する娘。子供は強い。「キャンサーペアレンツ」では「ママのパレッタ」という髪の毛が抜けた母と娘の日常を描いた絵本を制作している。この絵本は14人のがん患者さんで作った。その中の一人が、子どもにいつ伝えるかと聞いた時に答えてくれたお母さん。そして、絵本が完成してそのお母さんの家に届けられた時、お母さんは亡くなられていた。お母さんの遺影が襖の上に飾られていたが、テカリがあって見づらかったのが残念。こうした時、制作系の番組なら写真アップを再撮しにいくがドキュメンタリーではいかないものか?また、ここは大変感動的なシーンなので直前に絵本の作者インタビューは必要だったか、疑問に思う。絵本を読み終えた夫は「大したものだ!」と唸り、娘は「無茶苦茶広めたい!プラスの方向に行けば」と前向きに語る。素晴らしいシーンだと思う。

母親の病気を告げられた娘はがんをテーマに自由研究。そしてディレクターのインタビューに「私が不安になったらだめだなあと思う」と答え、母である女性は「頼りになるなぁ」と成長を感じる。2年以上にわたる長い取材で、抗がん剤の影響で女性の髪型が変わるのも実感した。お母さんが亡くなられた家庭、がんを抱えながら親子で支えあっている家庭、この番組の主役として取材させていただいたご家族が素敵な人生を送られることを強く想います。そして、「キャンサーペアレント」の活動には頭が下がります。ポジティブに生きる人の尊さを感じます。とても感動した番組でした。

一週間ほど前、若いころから一緒に番組作りをしてきたディレクター、松永伸司さんががんで亡くなりました。彼も診察を受けた時にはステージ4で治療の余地はなく緩和治療に入っていました。そして僕らが知って3か月ほどで逝ってしまいました。「5時SATマガジン」や「ウドちゃんの旅してゴメン」などの立ち上げに参加、いっぱい若手制作マンを育ててくれた心優しい腕利きのフリーのディレクターでした。謹んで哀悼の意を表します。

柴垣邦夫