「母と娘の金メダル~吉田沙保里、幸代~」(中京テレビ:スポーツ・情報)

  • 番組名:「母と娘の金メダル~吉田沙保里、幸代~」
  • 放送局:中京テレビ
  • 放送日時:2019年3月16日(土曜)24時55分~25時55分

中京テレビ自社制作の様々なトライアルの場となっている「土バラ」枠で放送された、過日引退した女子レスリングの吉田沙保里と母親幸代さんの1時間に渡るトーク番組。トークの間に同局のライブラリーにある吉田沙保里の映像や近年の取材映像を使い、母と娘の歩んだ33年間を振り返った。各局が夕方のニュース番組で企画するようなものの豪華延長版。拝見し、これは制作部マターではないな、と思い確認したら、やはりスポーツ部が手がけたものだった。どこが、という具体的な指摘はしづらいのだが、番組が醸し出す演出の雰囲気が制作部ものらしくなかった。良い悪いの問題ではなく。

閑話休題。気になった点がいくつかあった。まず三重の親子が何故、知多半島の割烹旅館で海の幸を食べながらトークを展開するのか、その必然性に引っかかった。津市(旧・一志町)出身の彼女らが何故知多半島?と。特別の理由があるのか、と思ってみたが、それは無かったようだ。それとおそらく2カメでの収録だったと思うが、前半、母が喋っているアングル、上手から下手方向に2ショットを捉えてるシークエンスで、終始娘にピンが合っていた。話の内容によっては母にピンを送っても面白かったのに、と思って見ていた。終わり近くになると、ピン送りをしていたので、もっとこの手法を自在に使ったほうが映像的に効果的だったのに、と感じた。新たな取材は座敷でのトーク部分だけ。(パリもそうだっのかな)せっかく知多半島に行ったのなら、海岸を2人で歩かせるとかのシーンを挟もうとか思わなかったのだろうか。斯くの如く新たな取材部分での映像の工夫が淡白に感じた。

トークは実際に沙保里誕生の話題から始まり、33年間を振り返る。半分は母娘同士の会話になっているが、そのきっかけを与えいてくるのはカメラの後ろにいる吉田沙保里を永年追いかけて来た女性ディレクターの質問。だから半分はインタビュー番組とも言える。やはり、永年追い続けて来た取材者の番組だけあり、カメラの前の吉田母娘は終始リラックスし、ホンネを吐いていた。その辺りはこのディレクターが取材者以上の存在として、この母娘の間の空間に入れる付き合いでないと出来ない技だ。そこから見える母娘はまるで「一卵性親子」と言えるほど。母と娘のしゃべり方が似ていること。ノリの良い性格もそっくりだ。この母にしてこの娘あり、という状況がトークの中から浮かび上がらせることが出来たのは良かった。引退会見場の袖にカメラを入れてのシーンも、こうした信頼関係があったからこそのものだ。栄勝氏が亡くなったことについて、ズバリは表現せず、葬儀、直後の試合で遺影を抱いての入場、引退会見時、母の財布に忍ばされていた写真、リオ後の報告、墓参りなど様々なカットを積み重ねることで、言葉で語らせる以上の効果を狙っていたようだ。狙ったのか、結果そうなったのかは分からないが。微妙な部分なので、演出としては良かったのではないか。個人的には地元に娘の名前を冠した「サオリーナ」という総合スポーツ施設が出来た時や、娘が「国民栄誉賞」を受賞した時の母の気持ちをもっと知りたかった。長いトークの中で、沙保里の「母のような家庭を作りたい」「娘が出来てもレスリングはさせたくない」と語った点が印象的だった。娘の栄光と母娘のキャラクター、それに長きにわたる取材者との信頼が成し得た特番、と言える。(KING)