「イッポウSP コイに恋して」(CBCテレビ:ドキュメンタリー)

  • 番組名:伝える ’19 「イッポウSP コイに恋して」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2019年3月31日(日曜)25時25分~26時25分

タイトルにもあるとおり、本番組はCBCテレビの夕方の報道番組「イッポウ!」の中で折に触れ報道されてきたものの集大成として、そこに親と子供の関係を絡めて独立した番組に仕立てたものだ。番組の後半で登場する台湾の業者が2億円超えで錦鯉を落札するシーンは、全国ニュースやネットのワイド番組でも取り上げられ評判になっていた。まさに錦鯉バブル到来か!という感じで、筆者も興味を持って観ていた。その番組の纏めとも言うべきドキュメンタリーが出来たというので、どういう仕上がりか、拝見した。

全体に、ドキュメンタリーとは掛けた時間に比例して奥が深くなり、作品に深みがでるのが一般的だ。(ディレクターは編成から与えられた時間との戦いでどこを捨てるか、に懊悩するわけだが)本作も、そもそもの出発点は中越地震で、新潟の錦鯉産地である山古志村が壊滅した事のこの地方への影響を、大石キャスターが取材するところからスタートしている。2005年の事である。以来14年間。ずっと取材を続けていたわけではないが、近年の2年間、当時幼魚の仕入先を絶たれ青息吐息だった小牧市の「成田養魚園」を再び訪ね、その後どうなったかを追跡取材したのだった。ここでその後の日本の錦鯉を囲む状況の一変を知ることになる。この取材時間の厚みは当然登場する人の、時代の、変遷を投影し、深みが出る。

「成田養魚園」の現社長の慧眼は、外国の錦鯉ファンの増加に目を付けたことだ。折しも急成長著しい金満中国、そして台湾、さらに欧米にも錦鯉ファンは増加し、国は錦鯉を「国魚」とする運動を始め、クールジャパンの政策にも乗り、社長の目論見は当たって、「成田養魚園」は全国屈指の錦鯉取引業者となった。社長自身、大石キャスターの質問に「儲かっている」と言って憚らない。錦鯉の事が気になって旅行も出来ないという窮屈な生活は、自分が高みに立つための栄光とのトレードオフなのであろう。

さて本作の主眼は2つ。現社長が目指す日本一、世界一の錦鯉の養魚園としての地位を固め更に成長すること。そしてそれに付随しての自分の跡取りの教育である。この現社長の子育てが極めてユニーク。そこそこ資金にゆとりがあればこそという庶民のやっかみの気持ちが頭を擡げないではないが、4人の息子を全員小学生の頃にフィリピンに英語留学させている。これからの錦鯉ビジネスに英語はマストだと。更に長男は高校に行かず、中学卒業以来父の背中を見ながら錦鯉ビジネスの勉強に精を出している。高校に行かなかったことについて仲間をみると、行きたいな、と思うこともあるけど、今自分のやることは錦鯉の勉強、とキッパリ!この長男、なかなか偉いぞ!(同年代の友人が少なくなってしまうことは避けてもらたいものだけど)さらに昨年マレーシアに錦鯉の短期修行に出る時、父はあえてビザが必要であることを教えず、空港のチェックインでトラブルになる。父はトラブルを自分で解決出来ないとダメだ、とかなり無茶をさせる(乱暴といってもいいくらいだ)。ライオンが自分の子どもを崖から落とす行為にさも似たりだ。総領の甚六的な長男と、自分が社長になるんだと言って譲らない、まだ幼い二男坊はお兄ちゃんと性格が全く違う、おちゃめな愛されキャラだ。さて、この2人が将来この「成田養魚園」をどうしていくのだろうか、興味深いところだ。

本作の面白さは、錦鯉業界の「今」を切り取り、提示している点。社長があくまで錦鯉は日本のものと拘り全力を傾ける姿勢や、各種の売買、品評会などを通してそれらを浮き彫りにした点と、それに加え親がどうやって跡取りを育てようか、とする信念と自らの背中を見せる努力。それに応える長男たちの側面。一粒で二度美味しい作りになっている点だ。だが、片や大きなテーマを二つ追ったことにより、どちらかというと「錦鯉養殖業者」としての側面が強くなりがちで、親子の側面がやや弱い、と感じた。母親の感想も入っていたが、例えば長男の友人で高校に通っている人物、例えば親しい取引業者などがこの親子をどう見ているか、などもう少し多面的な親子関係の取材が入ると厚みが生まれ「二兎を追った」マイナス面が少なくなったのでは?、と感じた。錦鯉の生態にも親子という側面があればメタファーとして最高だったのにな。この取材を画面に出て番組をリードした大石キャスターの人間性もこの番組の多層性を上手く掬いとり、相手のガードを下げ本音を引き出して魅力的だった。最後になったが番組タイトルロゴがチャーミングで印象的であった点もくわえておこう。(KING)