「伝える’19 土が来る」(CBCテレビ・ドキュメンタリー)

  • 番組名:「伝える’19 土が来る」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2019年5月26日(日曜)午前1時25分~午前2時20分

この時期になると、日本民間放送連盟賞地区審査に向けたドキュメンタリーが民放各局で多数放送される。多くは録画しておかないと観られないような時間であり、その放送時間も審査員に「適切か?」と指摘されたりする。しかし、局にとってレイティングが望めないハードな賞取り用ドキュメンタリーは、おおよそこうした時間の放送となる。悲しいことながら。でもネット番組制作で汲々の在京キー局よりも、こうしたドキュメンタリーは地方局の方がよっぽどいい作品を排出し健闘しているのが実情だ。特に東海エリアの各局は報道や教養などのジャンルで伝統的に強さを持っている。

そうした期待も持ちつつ、先日の「SING OR DIE」の前枠で放送された本作を録画で観てみた。内容は極めて分かり易く、その理解しやすさが、さまざまな疑問を生んだ。

所謂「調査報道」である。「建設残土処分」の問題は「イッポウ!」で折に触れて放送されて来ていて、それに追加取材を加え、集大成として番組として纏めたものだ。報道ドキュメンタリーとしては良くある手法であり、追跡という面でも、局として月~金夕方に大型情報番組を持っているので、継続性も担保され、本来あるべき報道ドキュメンタリー番組の理想的な姿の一つとも言えよう。

本作のスタートは去年5月「イッポウ!」で放送された瀬戸市に出現した残土の山の問題だ。地主には、リニア新幹線の建設残土と説明され、高さも1メートル、畑に使ってもらっても良いという説明だった。地主は「国のため」でもあるし、と考え休耕田を無料で貸した。ところが、業者が市に出した土地改良申請書はウソばかり。出現した残土の山は3メートル。しかも、残土はリニアとは関係ない一般工事残土だった。国道から見えていた蕎麦屋の看板も隠れてしまった。

困った地主は瀬戸市に訴えるが、貸主さんの問題(責任)なので行政の出番ではないという。つまり行政指導するに依拠すべき法令がないわけだ。更に市は番組の質問に「条例を作るつもりはない」と説明。地方自治体レベルで規制を掛けているところもあるようだが、根本的な解決になならない。つまり国に「建設残土」を規制する法令が無い、ことが全て。この番組の役目はそこを鋭く指摘し、可能な限り行政を動かす方向で取材を重ねることだろう。

番組は三重県尾鷲港に飛ぶ。尾鷲にも大阪や東京から都市開発によって出てくる残土が運び込まれ、紀北町の山中に運び込まれ廃棄される。大雨が振ったら崩壊しそうな小高い山をなし、あるいは山奥の木を伐採して投棄している様子が報告される。三重の場合は知事が動く事態となり、三重では全市町村で調査をすることになった。さらに清流銚子川を抱える紀北町では、条例を制定することになる。だが地元の土木業者を守ろうとする議員との間で論戦となり、条例は制定されたが、県外からの搬入を止めることまでは出来なかった。

一方瀬戸の地主は愛知県にも相談するが行政の対応はどこも同じ。依拠するべき法律がないと何も出来ないのだ。せいぜい警察が残土が産業廃棄物の不法投棄に当たるとして摘発したくらいで、送検された業者も結局不起訴となる。虚無感ただよう地主さん。ついに自腹400万円を掛けて自ら残土の山を低くしたのだった。

内容を書くのに長くなったが、番組は都市開発をすれば当然出てくる残土の行方や、それぞれ事件に関わる人間も時系列を追って丁寧に追跡した。やはり1年間かけた取材は厚みを感じる。全国で年間1億トン近くも出る建設残土にまつわる専門家の話も適切だった。廃棄を担当する業者の胸の内もきちんと聞き出せていた。ナレーションも平易な文章を使い、石井アナの抑制の効いた語りも良かった。

一方で、いち視聴者としてイライラもあった。瀬戸の地主は残土搬入業者とどういう契約を結んでいたのだろうか。民事事件として弁護士を入れて解決を図る道をは無かったのか。無かったのなら何故か。地主の悔しさは具体的にたくさん伝わって来るのに、どこかもどかしいのは、他に方法はないのか?という視聴者が感じるであろう疑問に番組が説明しきれていないからだ。地主が自己撤去費用の損害賠償の裁判を搬入業者に対して起こすことになるのだが、そういう事態になる前にすべきことが無かったなら無かったと説明して欲しかった。紀北町のパートが「過疎による産業不振の観点から残土受け入れも食っていくためには有りだ」と業者に語らせるなど議会の取材も含め理路整然と取材出来ていただけに残念な思いがした。自己負担で土を処分しなければならない国政の不作為に番組としてもっと怒るべきだった。

都市部の迷惑を地方が受け入れるという構図は「残土」だけではなく、今の日本にはあちらこちらにある問題だ。行政の頼りなさもよ取材されていたが、そうしたことの全ての根源である国政の不作為にまで迫って欲しかった。問題を提起する、こんな事がありますよ、とテレビを観ている人に実情を認識してもらう、という意義はあろう。しかし「調査報道」の真骨頂は行政や国政を動かし、立場の弱い人たち、理に適わない目にあっている人たちが救われるところまでいってこそ、だろう。とても難しいであろうことは承知して書いている。「事実」を知らしめること自体が「大スクープ」であるならまた話は別。

三重県としての動きはまだ続いているのだろう。国に対し番組が対峙することも続けて欲しい。「国が法規制に踏み切れないなか、年間1億トン近い建設残土が行き場を求めてさまよう今の日本。ここがダメになったら次はどこへ」とういう締めのコメントはポエティックですらあり綺麗だが、どこか番組としての「放置感」が漂う。番組には国・行政を動かすような更なる継続した突っ込みを期待したい。

追記:番組には関係ないことだが、自局のHPにこの番組を紹介するページが無い。せっかく良心的な番組を作ったのなら、たとえ1ページでもいいから番組紹介サイトを作ってアーカイブ化して置くべきではないか。(Twitterでは発信があったが)「SIING OR DIE」についても同様。(KING)