「SING TO LIVE」(CBCテレビ・ドキュメンタリー)

  • 番組名:「SING TO LIVE」
  • 放送局: CBCテレビ
  • 放送日時:2020年5月31日(日曜)午後3時54分~午後4時54分

去年の今頃の日曜のど深夜に放送された「Sing or Die」の続編にあたる。前作は、「2019年日本民間放送連盟賞 番組部門 テレビエンターテインメント番組/中部・北陸地区審査会/審査員特別賞」を受賞した。当時の感想は筆者も書かせて頂いたが、審査員の感想と通ずる所があったと嬉しく思うし、こうしたドキュメンタリーが評価されるのは制作局にとっても苦労が報われ、励みにもなるはずだ。

さて、続編のタイトルは、よく考えて付けたなとそのセンスに感心した。もちろん中身を観てからの感想だ。女性2人のロックバンド「絶叫する60度」のドキュメントなのだが、いきさつなどは去年の評価をお読みいただきい。本作を観るまで、二人がこういう事になっていたとは寡聞にして知らず、正直びっくりした。基本的に二人は仲が良くない(とうよりお互いの存在が理解の外にある)という点だけは抑えておいて頂きたい。

が、相変わらずの「魁(Kai)」であり「もんてろ」であったし、観ない間の変化も読み取ることが出来た。とにかくライブでしか生きることを見いだせない普通ではない二人。(←何が普通なのか、というテーゼはこの作品を観ると心に浮かぶはずだが、世間一般からはそう見られるだろう)コロナ禍の中でライブが出来ず、一体どうしているんだろう、彼女たちの生きる場所がなくなった現状、何が起きているだろうか、と番組を見始めた。

冒頭のナレーションは、やはりこの時期どこもライブをやっている会場はない、というところから始まる。そして番組にの前半は、前作のサマリーで、「魁(Kai)」と「もんてろ」のライブ人生をまとめて概要を説明していた。後半からがタイトルに結びつくような内容となる。

なんと、「絶叫する60度」は去年の9月に活動を停止していたのだった。前作が放送されてたった4ヶ月。コロナの問題などこの世に無かった頃に、彼女ら二人の活動は停止していたのだ。その原因はフィリピン国籍の「もんてろ」がバックバンドのメンバーと結婚し、妊娠したからだ。この間の事実を知らなかったので驚いたというわけだ。

本作のドラマはここにある。「もんてろ」はフィリピン国籍のためイジメに会ってきて、とにかく一人になりたがる。ライブ会場の移動も一人だし、寝泊まりはほぼネットカフェだ。その「もんてろ」が結婚!?どういういきさつがあったのだろうか。ライブの前には動物園に猿を見に行き、「人間てめんどくさい」とかいう「もんてろ」に、「人間は面倒くさくない」と思わせる人物が登場したということなのだろうか。いや、一人を好むという裏側にはきっと寂しがり屋というか、愛に飢えていた「もんてろ」がいたのだな、ということなのだろう。

ライブ間、MCをするのは「魁(kai)」の役目で、「もんてろ」はステージでは喋らないとうのが基本なのだが、「もんてろ」も喋るようになっていた。これはきっと彼の愛情を確認した辺りから「もんてろ」の中から寂しさのかけらが1つくらい無くなったからなのではないだろうか。

「もんてろ」の妊娠で「おめでとうなんだけど、心から祝えない自分がいる」というのは相方の「魁(Kai)」である。発達障害、双極性障害、自閉症、社交不安障害など心にややこしい状態を抱える彼女は、「もんてろ」とは逆に、常に誰かといなければ落ち着かないタイプなのだ。そうした「魁(Kai)」が、バンドを休止することになる。二人は活動について話し合うことは無いのだが、無言の確認として、ライブ人生を突っ走り、メジャーになる、という夢は共有していたはずだ。だから彼女の納得できない気持ちもよく分かる。しかし、事態は元には戻らない。

「もんてろ」は「絶叫する60度」を壊してしまったことに対する反省と甘さに対する後悔を語る。が新しい命が一番の存在になるのだろう、ということは滲んでくる。一方、「魁(kai)」は「ライブが命というなら結婚なんかしちゃだめだと思う」「もんてろには一生おめでとうとは言えない」と厳しい言葉を吐く。「もんてろ」に子供ができれば常識的には「もんてろ」にとって「子供>ライブ」という構図になるのは仕方のないことだろうが、「魁(Kai)」にとっては「ライブ=命」であるわけだから、二人の考えは一致しない。「魁(kai)」は自分のバンドを作ることを始める。もちろん「もんてろ」には何も言わないで。

しかし、去年の9月に開かれたラストライブで歌われた「桜は二度咲く」という歌は意味深長だった。(ドイツやイギリスからもファンが来ていたのには驚いた)そして「もんてろ」は「魁(Kai)」に初めて手紙を書いて渡した。そこにはお礼とお詫びとそして、またね、とあった。

そして、エンディング。「もんてろ」には赤ちゃんが生まれ、「魁(Kai)」はコロナ禍の中で演奏の場を失っていた。夫の実家の熊本にいる「もんてろ」と「魁(Kai)」がテレビ電話で8ヶ月ぶりに会話した。前作で観た時には、会っても挨拶もしなければ会話もしない、「どっちかというと嫌いなタイプ」とお互いに平然というわりには舞台上では素晴らしいパフォーマンスを繰り広げる。そんな二人の関係に変化が出ていた。それは「もんてろ」の結婚と出産と、コロナ禍という事件で、見つめていた方向だけが一緒だった二人の心に共通する歌への強い思いが生まれたような気がしたのだった。「魁(Kai)」は「生きて会いましょう」と締めくくり、「もんてろ」のために一曲歌った。二人は変化した。いや変化せざるを得なかった。これが、「絶叫する60度」のライブが再開された時、かつて持っていた尖ったロックがまた聴けるのだろうか、あるいは母となった「もんてろ」の影響が出て別の味わいも持ったバンドになるのだろうか。それはそれで楽しみだ。二人は「生きるために歌う」”SING TO LIVE”なのだ。二人のオリジナルの人生に私たちは何を言うことも出来ない。

それぞれ、人生に負うものを人より多く抱えて歩んできた二人。この二人を見ていると、「普通とは何か」「人間の関わり合いとな何か」「人の居場所とな何か」など様々な事を考えさせられた。

驚異的視聴率を獲ったドラマ「仁 JIN」の完結編最終話に続く枠を出してきたCBCテレビ編成の意気込みを感じた。が、あいかわらず、番組のHPが無い。これ、何とかならないのだろうか。

この二人を主役にして「映画」が作れないだろうか、とも考えた。物語としては面白くなるはずだ。しかるべきキャスティングを得ることが出来れば、きっと面白い映画になると思うのだが。CBCクリエイション、「映画」にしてみる気は無いか?(KING)