「黒川開拓団の女性たち 75年目の告白」(中京テレビ:ドキュメンタリー)

  • 番組名:「黒川開拓団の女性たち 75年めの告白」
  • 放送局:中京テレビ
  • 放送日時:2020年9月5日(土曜)25時25分~25時55分

先回投稿した「検証『トイレットペーパー品薄』報道」と同日に「土バラ・真夜中のドキュメンタリー」枠で放送されたもの。先般このサイトにEテレの「”焼き場にたつ少年”をさがして」についての考察を投稿させて頂いた時、この地方の局にあっても、先の大戦のドキュメンタリーは継続して放送すべきだ、と書いた。そうなると本作について書かないわけにはいかない。

というのは本作において証言する高齢の女性が口にする、「戦争は女性、子どもが犠牲になる」というニュアンスの言葉は、「”焼き場に立つ少年”をさがして」の総括に通底しているからだ。戦争は前線だけで行われるのではなく、銃後においても悲惨な「戦争」は常にある。戦争というものは一旦始まると性別や年令、所属を問わず犠牲を強いられるということが、本作などの証言で理解が深まる。だからこうした番組は地味で時間もかかるがエリアの放送局にあって制作することの意義は大きいし制作し続けなくてはいけないと感じるのだ。

本作は「タブー」に迫り静かに告発する。派手さや声高に何かを叫ぶのではないが、戦後75年間禁忌として封じられた蓋を開け、周知することの重みを感じることが出来た。それにしても頭が下がるのは、満州から引き上げる際にロシア兵に体をもって他の人達を守った女性が声を上げたことだ。締めのコメントで女性の一人が「こうした出来事を語り続けることが社会の意義」というニュアンスを語るが、すべての政治家に聞かせたいコメントだった。

番組は満蒙開拓団として入墾した岐阜県の黒川開拓団に起きた悲劇について、口を開いた当時の女性たちのインタビューをメインに当時の様子を綴っていく。齢90を超えた彼女らは、残された少ない時間で、自分たちに起きた出来事をカメラの前で語り、戦争がいかに狂気を引き起こすか、を明らかにしていく。彼女らの思いが胸に迫る。

敗戦と同時に起きた現地での復讐にも似た暴動を、ソ連兵に停めてもらおうと、おそらく男は兵隊に取られていたので老人や幼い子供を持つ女性らによって、団の未婚の女性が性的奉仕を懇願され、彼女らはみんなのために犠牲になっていく。なんという野蛮でひどい仕打ちだろう。他の団では集団自決が報じられる中、皆を守るのはそうでもしなくてはならなかったという戦争の非道。それを持ちかけざるを得ない集団心理、またそれを受け入れるソ連の野蛮。すべてが戦争という名のもとに起きた非人間的な悲劇であった。

番組では戦後黒川地区に建てられた犠牲になった女性(性病などで)の鎮魂碑にその来歴が書かれていないことにも触れる。何の石碑か分からなかったものを、勇気ある女性たちが実名で声を挙げ始めたことから、2年前、黒川開拓団に起きた悲劇の来歴を刻んだ説明碑が団の遺族会によって建てられた様子も取材、女性たちの時間の経過と石碑のもつ意味合いの時間の経過が番組内でオーバーラップして印象的だった。

おそらく10年も経たないうちに、黒川開拓団の乙女たちに起きたことを語る体験者はいなくなるだろう。それは原爆や東京大空襲もしかり、全体に先の大戦を語ることが出来る体験者がいなくなることは確かなことだ。それまでに放送局などのメディアが記録すべき事は多い。今しかできないこと、しなくてはならない事は多いはずだ。そうした側面から見ると本作は、戦争の目をそむけ耳を塞ぎたくなる事象に切り込んだことは買わなくてはならない。他局の奮闘も期待したい。(KING)