「今年の番組コンテストを振り返る&よりそい2020年秋篇」(CBCテレビ:ドキュメンタリー)

  • 番組名:「今年の番組コンテストを振り返る&よりそい2020年秋篇」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2020年11月8日(日曜)25時29分~26時35分

今年の日本民間放送連盟(民放連)の年次大会は10年ぶりで名古屋で開催される予定だった。原則東京開催で、5年に一度、地方に出かけるというローテーションだったと思う。だから久しぶりの名古屋大会開催は幹事社だった中京テレビを始め在名各局にとっては負担も大きいが、期待も大きかったのではないか。というのは地元開催となれば、大会で発表されるその年の連盟賞を地元局がたくさん獲りたいと各局が勇み立ち、それ故に各局ともローカル番組製作が活発になる一年だからだ。制作陣にはやりがいもあるし、それなりのプレッシャーがあるのは体験した者としてよく理解出来る。ところがこのコロナ禍だ。大会は中止になった。

しかし大会参加者を前にしての表彰式こそ無かったが、受賞作品は発表され、連盟賞テレビ・グランプリ(すべてのジャンルの受賞作品からベストを選ぶ)、準グランプリをそれぞれ中京テレビのドキュメンタリーが受賞する(グランプリ=「がらくた ~性虐待、信じてくれますか~」)準グランプリ=「バヤルタイ ~モンゴル抑留 72 年越しのさようなら~」)という快挙を成し遂げた。またCBCテレビのドラマ「スナイパー時村正義の働き方改革」が部門の最優秀に輝いた。ドラマ部門ではメ~テレ「本気のしるし」が優秀賞を受賞。エンターテインメント部門で東海テレビ「権藤 ゴンドウ 雨、ゴンドウ~壊れた肩が築いた“教えない教え”~」が優秀賞を獲得した。在名局としては内心ホッとしたのではないか。CBCテレビの受賞作は、筆者も放映時に録画して見せてもらった。ここには書かなかったが、アイデア勝負のミニドラマで、居並ぶキー局の番組を相手に見事に受賞となった点はお見事。地方局の可能性を示したドラマとして、刺激になったのではないか。受賞した番組が他の参加作品と比べてどうか、という点は指摘できないが、それぞれに作り手の情熱を感じる佳作ぞろいであった事は確かだ。

テレビ作品のコンテストでは、この「連盟賞」が有名だが、この他にも「文化庁芸術祭」「放送文化基金賞」「『地方の時代』映像祭」などが知られている。この中では今年の第46回放送文化基金賞テレビドキュメンタリー部門でCBCテレビ「土がくる 規制なき負の産物の行方」(筆者も批評を書かせていただいた)が優秀賞を獲った。そして筆者が今年3月に観たCBCテレビのドキュメンタリー「よりそい~静寂と生きる難聴医師」が、今年の「『地方の時代』映像祭」放送局部門で選奨を受賞したとの発表があった。それぞれの番組スタッフにおめでとうと言わせて頂こう。この作品には今年の3月に放送したものに半年分の追加取材を加えたアップデート版があり、先日放送されたので視聴してみた。芸祭を意識して制作したと思われる。この「よりそい~静寂と生きる難聴医師2020秋篇」について少し触れたい。

骨格は3月放送分と同じだが、コロナ禍が半年経過して、難聴医師である今川先生にも以前にも増しての苦労がのしかかっている様子が加えられ、より今日的な内容になっている。先の番組の批評で「病院という閉鎖空間の映像が多くなってしまうのは仕方がないが、尾鷲の光景とかより広い空間を挟むと良いのでは」と指摘したが、これは見事に解決されていて、全体としてリズムと番組(映像)としての広がりが豊かになっていて見やすくなっていた。当然前作を知らないで観た人がきちんと分かるような仕上げになっていて、あれから半年の厚み(コロナ禍)を加えたことでよりインパクトが増した。更に中日新聞にも取り上げられたが、今回のナレーションを今川医師自らが務めたことが重要な点だった。前作は上白石萌音がナースの立場でナレーションを付けていて、それはそれで良いな、と感じていたのだが、主人公である今川竜二医師自信が自分の言葉として語りを付けた効果は大であった。自分の言葉(勿論原稿はディレクターが書いたのであろうが)で語られる体験・苦労は説得性に満ちていた。今回も「共生」とはどういう事か、「多様性を認める社会」とはどういう事か、ということをしっかり考えさせてくれた。個人的に特に印象的だったのは、大阪府の吉村知事がマスクをして会見しようとすると、係員が「聴覚障害の方がマスクを取ってください、と言っていますが」と耳打ちし、知事がそれに応えて会見をするようなったシーンだ。なるほど、「共生」とはこうした細かい点の気づきと改善なのだな、という好例を示した見事なシーンといえる。

一点、疑問が残ったのは番組HPには書いてあるのに番組では触れられていなかった、今川医師が話している自分の声は自分にはどう聞こえているのか、聞こえていないのか、という点だ。HPによれば、喋っている本人には(当然の事なのだろうか)聞こえていないとのこと。なぜ私がこのことにこだわったかと言うと、幼い頃から発語訓練を重ねてきた今川医師の苦労が、「自分の声が聞こえていない状態」ならば発音することの難しさは更にとんでもない苦労を要求すると思うからだ。しかしそんな点を除いても、前作と比べ洗練され、良い番組に仕上がっていたと思う。この番組にはまだ「芸祭」の発表が残っている。芸祭の同じ部門には連盟賞で準グランプリを獲った「バヤルタイ~」も、東海テレビの作品も出品されている。勿論、全国から地上波、BS局からも秀作がエントリーしている。結果が楽しみである。(KING)