• 番組名：「いってきます！　～岐阜・飛騨古川やんちゃ物語～」
• 放送局：　東海テレビ
• 放送日時：2021年1月1日（金曜）午後12時55分～午後1時55分

一昨年東海テレビ60周年を記念して制作され始めた「エリアドラマ」。初作は大須を舞台にした「ただいま」。去年は三重・伊勢にロケして「おかえり」。タイトルの「三段活用」からすると、今年は岐阜で「いってらっしゃい」かな？どんなドラマだろうと楽しみにしてた。これで三県満願となり来年からはもう無いのだろうか。

正月に限らず、ローカルドラマについては昨年、CBCテレビが制作した「スナイパー時村正義の働き方改革」が連盟賞ドラマ部門大賞、芸術祭奨励賞を受賞するなど、そのアイデアで一定の可能性を示した。ローカルといえどもドラマは作れるし、その制作力（企画力・プロデュース力）は磨いていって欲しいと思う。東海テレビには、是非「エリアドラマ」を正月という季節に限定せず、しかしこのエリアに拘ったドラマを制作して行ってもらいたいと願う。ノウハウの継承も含めて。

さて、今年のドラマである。岐阜が舞台でありタイトルも筆者の予想がそこそこ当たったのはご愛嬌。制作の座組は昨年と同様、テレパックの監督の演出による。また昨年、筆者は製作著作は東海テレビ単独で持てないだろうか、としたが、当節のライツ管理のあり方もあるのだろう、今年も2社の共著となった。CBCもそうだが、企画・プロデュースは局が行い、演出（監督）は在京のドラマ班に任せる、という座組だ。ローカルドラマのスキームとして、そういう時代なのだろう。だがカメラ技術、照明、美術、音声などは地元を使っていってほしい。

脚本は名古屋在住でケーブルテレビ「まわりネットワーク」編成の出身という地元をよく知る「いとう菜のは」。昨年に続く執筆だ。

まさかこんなドラマを作るとは予想だにしなかっただろうが、それを活かしての脚本に仕立てた。マスク、マウスシールドが登場、舞台となる飛騨古川では春の祭り、起こし太鼓も中止という環境を逆手に取り、この逆風に負けない地元市民の熱い思いを伝えたものとなった。かなりベタである。が、前作も前前作も、話はベタであり、ネットドラマではないし、ドキュメント風のリアルな映像もふんだんに入った作りであるから、こういう仕上がりでいいと思う。観る人が自分たちの故郷のことを更に知り、また故郷の良さを再発見する。舞台には一作目から大須の和菓子屋、伊勢の民宿、そして本作では飛騨古川の日本酒酒蔵と、その土地土地の風情を感じさせる背景設定がなされている。これもこのエリアの視聴者には、奇をてらわない安心感があるので良いのではないだろうか。社会的な問題点を指摘したりするような大上段に構えたテーマより、故郷の良さ、伝統の良さをしみじみと味わい、人間（親子）のつながりの大切さ、温かさを再確認する、これが「エリアドラマ」の主眼なんだろうから。街の再開発のテーマも以前にはあったがあくまでも「人情ドラマ」の背景としての登場であった。

そうした意味で、本作はなんとも心地の良い仕上がりであったと感じた。最後に青龍組の山車を出してもらえたというのも見ものであったし、古川を中心に岐阜県の人も刮目したのではないか。ドローンやクレーン、また過去の資料映像を使った古川町（私らはその方が馴染みがある）の風景も気持ちがいいものだった。

役者については、年々地元色が薄くなるが、このところお父さん役をやらせると味がある宇梶剛士は良かった。彼が相当バタ臭いので、主人公の娘は父に似てバタ臭くなるのは必然であるのだろうけど、飛騨の山あいに育った地元愛溢れる娘、というキャラクターとして内田理央は、ルックスがバタ臭すぎた（濃すぎた）のではないか、とオジサンは思ったのだった。もう少し醤油顔の娘のほうが良かったかなあ、と。

なんだか元旦にこのドラマを観るのが習慣になりそうだ。三県一周りしたが、来年も是非製作して欲しい。加えて営業面で岐阜のスポンサーがずらりと並んだのも、ローカル営業掘り起こしという観点で局内では大事なポジションなのだろう。東海テレビ岐阜営業の頑張りを感じる一方、視聴者目線として、提供しているスポンサーも地元エリアを大事にしたいという思いを持っているのだな、と思わせて提供メリットも大きいのではないか。

蛇足で本編とはまるで関係ないが、ドラマの後半で、交通情報の速報スーパーが画面に流れた。制作者として画面が余計な速報で汚れるのは嫌だと（私個人の経験上からだが）思うが、「JR高山線　飛騨古川～猪谷間　運転再開」との表示が、ドラマ上、青龍組山車蔵の前で父と娘の思いのすれ違いが解決する（つまり「運転再開」）シーンに重なったのには、制作者として不思議な縁を感じたのではないか。余計なことだけど。（KING)