テレビに求めること。 ~Nスペ「テレビとはあついものなり 放送70年TV創世紀」に思う~

先日(3月21日)、NHKスペシャルがテレビ放送開始時の生みの苦しみを再現ドラマで伝えていた。日本のテレビ放送開始は1953年。僕が生まれる7年前だ。当時、得体の知れないこの業界に集まるスタッフは、はずれ者や変わり者が多く、チームワークには苦労したらしい。また、カメラの性能も低く、被写体に大量の照明を当てる必要があった為、演者たちは高温に煩わされた。そして、何より制作者たちは、ニュースや娯楽をどう見せるべきかという基本的な方策をゼロから探らなければならなかった。

試行錯誤を繰り広げる日々は、大変だが充実している。番組では、芸能アナの先駆けと呼ばれる宮田輝と周辺のスタッフにスポットを当て、視聴者参加型番組のあり方を模索する様子が描かれていた。主役は素人。スマートに段取り良く進めようとすれば必ず失敗する。ハプニングを観客が楽しめる空気作りこそ、司会の仕事。カメラも照明も台本に固執せず、臨機に動き回る。そんなバラエティの基礎を僕らの先輩たちが築き上げてきたのだ。

また、番組は災害報道についても触れている。1964年の新潟地震の際、テレビの世帯普及率は9割に達していた為、放送が本来の目的を果たせた。しかし、普及率アップを促した背景には、同年の東京五輪があり、日頃のバラエティがあった。これらにより、いざという時の情報入手ツールを皆が手に入れることにつながったとも言える。

今や、10代の半数がテレビを見ないとか。You TubeやTik Tokが浸透したせいだが、同じ趣味嗜好の者同士が狭い分野に籠ってしまうのではないかと番組のMCが懸念していた。テレビはごった煮なので、偶然の出会いがあるからこそ面白い、と。確かにそうだ。行く先を決めない散歩を楽しむように、僕はこれからもテレビを楽しみたい。

中島精隆