「チャント!スペシャル 転んで転んで~ラグビー家族のラストパス~」(CBCテレビ・ドキュメンタリー)

  • 番組名:「チャント!スペシャル 転んで転んで~ラグビー家族のラストパス~」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2023年3月24日(金曜日)午前10時25分~午前11時20分

「どう転がるか分からない楕円のラグビーボール。人生もしかり」とは番組のHPで謳われるキャッチフレーズだ。なるほど、上手いことを言う。大園Pらしいタイトルとコピー。(放送後随分経過しての書き込みとなったことはお詫びしなくてはならない。後半、なぜそうなったかについては記した)

CBCテレビ夕方の情報番組「チャント!」(それ以前の「イッポウ!」「ユ-ガッタCBC」なども含め)が17年間(!)追い続けて来た岐阜のラグビー一家の最終章。かけた時間の厚みの分、見ごたえのある番組に仕上がっていた。そして、そのフィナーレは筋書きのないドラマのように劇的だった。1つの対象を長い間追い続けるというのはテレビドキュメンタリー成功の(見る人への訴えの厚みの)大きな要素だ。故に夕方デイリーの「情報番組枠が時間経過の積み重ねを担保する重要な役割を果たす」という訳だ。これは他局も同じこと。

高校生ラガーマンにとって正月に花園へ行くことは夢であり目標だ。岐阜県立岐阜工業高校ラグビー部元監督で今はリタイアしている田中輝夫さんは、自らも同校ラグビー部出身で花園へは行けず、その息子も同じ道を歩み、やはり決勝で宿敵、関商工に破れ、花園には届かなかった。そこで期待は3人の孫へと移っていく。孫たちも(男の子)当たり前のように岐阜工業へ進学し、ラグビー部に入り、花園を目指す。長男、次男も祖父や父と同じく関商工の前に涙を飲んだ。さて、最後の望みは最後の三男坊に託された。3人の孫の中では、癖は強いけど一番良い選手に育ったのだという。三男坊の試合も決勝で関商工と当たったのだ。だが彼は前の日の練習の態度が悪く、先発を外されていた・・・。さて、田中家の夢は叶ったのだろうか!

まるでサスペンスを観るが如く(筆者は結末を知らなかったので)どきどきで観させてもらった。試合は途中出場の三男坊が活躍し、見事関商工を振り切って花園へのチケットを手にすることが出来たのだ。実に親子3代、合わせて5人目の悲願達成だった。よくぞ取材キャメラを回し続けた17年間。その取材陣の努力と忍耐に応えるように勝負の神様は田中家に花園行きのチケットをもたらしたのだった。孫3人の母親(田中さんの息子の嫁)は9年間に渡り毎日弁当を作り続けた。それこそ一族力を合わせての花園行きチケットだったのだ。

番組はアーカイブをふんだんに使い、集めた時間の厚みの効果を上手く生かして、現代に生きる孫たちの活動へと繋いで描いた。幼い頃から家に筋トレ小屋がある(田中さんは大のゴジラファンでそのコレクション部屋が筋トレ部屋になったという顛末も描かれていて微笑ましい)状況で、何の疑いもなく岐阜工業へ進んだ3人の孫たち。果たして人生、これでいいのか?高校時代のラグビーのために人生を決めてしまって良いのか?観ていて心配になった。ある意味、田中ラグビー教の信者として洗脳されてしまったのではないのか、とすら思えてきた。もちろん3人の孫たちは心身ともに健康に育ち、それなりに悩んだのだろう。が、ここまでの18年間はラグビーありき、だった。一つの事に集中し何事かを成し遂げる努力、その姿は尊い。それは分かる。そして三男坊が花園への切符を手に入れた瞬間の感動は観ている方にも伝わり、胸が熱くなるスポーツの持つ独特の雰囲気も悪くない。

だが、と筆者は思うのだ。決して番組をくさすわけではないのだが、3人の孫と両親は、彼らの人生においてラグビー以外の選択は考えられなかったのだろうか。そうした道を歩ませる(結果としては自分たちも納得しての選択ではあったのだろうが)事に祖父、父母、そして3兄弟に悩み・葛藤は無かったのだろうか。3人の孫たちはラグビーというスポーツから様々な事を学んだし、生活の中でも「自主」ということを叩き込まれたので、それはそれで素晴らしいとは思う。彼らのこれからの人生においてラガーマン精神(One for all All for oneに代表されるような)は生き続け人生を支えてくれるのだろう。3人がそれをそれぞれ幸せな青春だった、道に過ちはなかったとしてくれれば筆者あたりが、あれこれ言うのは余計なことだろう。強制は感じないし、3人共すすんで岐阜工業へ行き、親や兄弟がなしえな無かった花園への道を切り開くことは当然のこととして受け入れている。歌舞伎の世襲に似た雰囲気のようなものを感じる。何より田中家3代がそれぞれの人生の歩み方を肯定していれば幸いなるかな、なのだが、観ている側の人の親としてそんなある種の窮屈さも感じたことを制作者に伝えたくて書いてみた次第だ。

もちろん親子3代1本の鉄筋の如く不偏の信念に貫かれた一族とその人生があることは全く否定はしないし、そのような有名な芸術家一族やスポーツ一家の例は色々と見てきてはいるので、田中家3代、あっぱれ!でもあるのだけれど。う~む、回りくどくて何を言いたいのか理解できなかったら筆者の筆力の限界。だって、楕円のラグビーボールのように人生はどう転がるか分からないんだから。(KING)