「濱田岳アマゾン体感 暴れ怪魚と猛牛大移動」(CBCテレビ・紀行エンタメ・ドキュメント)

  • 番組名:「濱田岳アマゾン体感 暴れ怪魚と猛牛大移動」
  • 放送局: CBCテレビ(TBS系フルネット)
  • 放送日時:2019年1月26日(土曜)午後2時~3時24分

いまやこの手の、世界を巡る紀行ドキュメンター風エンターテインメント番組は、地上波のみならず、BS、CS、加えて有料ストリーミングにも溢れるほどある。自然驚異系のBBC(英)や専門的な深掘りが魅力の「ナショナル・ジオグラフィック」など、その映像に定評のあるチャンネルにも事欠かない。こうした環境の中で、このジャンルにおいて当該番組を観る人を引きつけるものに仕立て上げるのは容易ではない。世界中でネタを探しまくられている状況下、現地コーディネーターを使ったリサーチ、またシナリオハンティングは重要な意味を持って来るだろう。その中から、プロデューサー、ディレクターは視点の置きどころは適切だろうか、視聴者を引きつける魅力に溢れているだろうか、「今」この番組を放送する意味は押さえてあるだろうか、放送する曜日や時間帯に沿うものであるだろうか、など検討し、本番のロケに入るわけだ。

閑話休題。CBCは1997年から「地球大紀行」と称し、毎年この時期に世界をロケし、環境問題や人類の足跡、そこから見える未来に目を向けたドキュメンタリーを全国ネット番組として製作してきた。なかでも2008年から3作連続で俳優の西村雅彦を起用し製作された「赤道大紀行三部作」は筆者の記憶にも残る秀作であった。その「自然とそこで暮らす人」にフォーカスした一貫した製作ポリシーは20年以上揺るぎがなく、立派なものだ。これからもそれは貫いて欲しい。

さて、その枠、今年を入れて3年連続して旅人に俳優の濱田岳を起用している。こうした紀行ものの出来を左右する大事なファクターの1つにリポーター、旅人の存在がある。ただの人気芸能人が外国に行って上っ面を撫でたような感想を吐くが如くのレベルでは到底あまたある同様の作品群から頭一つ抜けることは出来ない。その点、濱田の素朴で誠実な、更にユーモラスな人柄は現地の人たちに受け入れられ易く、心を開かせる効果はあったようだ。濱田も決して多弁ではないが、観ている人に分かりやすく、かつポイントを抑えたコメントは抑制が効いて良かったと思う。彼自身が地元の人たちの懐に飛び込もうとする姿勢が良かったのだ。(カメラが回る前にディレクターとの周到な打ち合わせがあったことを思わせる。初見の驚きは失わずに)

構成だが、冒頭に「ざんねんな生き物事典」を持ってきて、観てる人を一瞬「おや?」と思わせていた。アマゾンやブラジルの密林といっても、もうこれまでに数多のテレビカメラが入り尽くしているし、同局の「赤道大紀行」でも既に一度この地を踏んでいる。そうしたなかで、斜に構えた導入部はあざといといえばあざといだろうが、視聴者の耳目を引きつけるには一定の効果はあったのではないか。アイデアは買っておきたい。

本編は大きく2つに分かれる。前半はアマゾン川上流の水上集落カタラォンが舞台。濱田はそこで一家を養う漁師の手伝いをする。濱田といえば、テレビドラマ「釣りバカ日誌」でお馴染みの釣り上手であり、竹竿一本で釣果を挙げるのはお手の物だ。この辺りで濱田のキャラクターも相まって、番組は視聴者を流れに引き込むことに成功するのではないか。最近都会から移り住んでくる人が増えた、とかトイレなどの水回りもいつまでも「垂れ流し」では済まない、などの川の暮らしの問題点もさり気なく挿入されていく。巨大魚ピラルクに対する現地の人々の思いや行動も上手く掬い取れていた。

次に濱田は大湿原パンタナルでカウボーイに加わる。ブラジルは世界有数の肉牛生産国であり、カウボーイは重要な職業だ。濱田は欠くことのできないパートナー、馬の調教を見、実際に馬にまたがって牛の群れの移動を体験する。そこで濱田は突然の300頭の牛の大暴走に直面してしまう。また牛を始め家畜を襲うジャガーとも対面することになる。濱田にいろいろと教えてくれたニウドさんいわく「ジャガーもパンタナルの自然にとって必要な存在だ」という言葉に自然の営みの中で生活している男ならではの重みを感じた。

番組中、ナレーションで「アマゾンに暮らす父親」というポイントを挙げていたが、「父親」という点には迫りきれていないウラミが残った。ただ、90分ものの番組だと、どうしても三箇所くらいのロケポイントを入れたくなるところだが、本作では二箇所に絞り、それぞれに並のバラエティでは描ききれない深掘りした描写が出来ていた。論点がバラけずボケず良かった。

ナレーションの橋本マナミは女性を使ったという点は評価するが、何をしたくて橋本マナミを使ったのかが今ひとつ分からなかったし、ところどころ速読みになってしまうナレーションも若干気になる点ではあった。

20年間かけてこの枠の作り方がこなれて来たな、と感じた。地球環境や自然保護、あるいは自然との共生などを、ことさららしくいうのではなく、またリポーターにエンディング近くで声高にマトメの感想を言わせるのではなく、映像と現地の人の行動や触れ合いの中から自然と主張を浮かび上がらせていて、「どうだ!」という当てつけがましさが薄れナチュラルになってきているような気がしている。忘れてはいけないのはカメラワークが優れていた点だ。恐らく局外カメラマンの手になるものだと思うが、散漫になりがちな対象である自然を、心地よくビビッドに切り取った手腕は高く買いたい。長年チームを組んできたプロダクション「イースト」の奮闘も光るところだ。

欲を言えば、もう少し視聴者にものを考えさせる「余白」みたいなものがあるとインパクトが更に出たのではないか。先日のドラマでも触れたが、今の番組は全部を説明しすぎるウラミがある。

全体として、演出、構成、キャスィング、主張、論点など、土曜の午後に相応しい完成度の高い上質の「教養娯楽番組」に仕上がっていたと思う。これだけ程度の高い番組を作ってしまうと、来年がつらかろう。(笑)(KING)