- 番組名:「戦国びとよ、この”今”もやすらかにーコロナ禍の鎮魂ー」
- 放送局:CBCテレビ
- 放送日時:2021年9月12日日曜日 午後2時~2時54分
ダイドードリンコグループが「日本の祭り」を応援し始めて今年で19年になるという。この間、TBS系を中心に一部県域独立局を含めおおよそ35局で、それぞれのエリアの祭りを取り上げたドキュメンタリーをスポンサードし、放送してきた。今の地上波テレビの諸事情を考えると、一社で中々出来ることではないだろう。この先も是非続けて行って欲しい。(東京はTBSの枠料が高いからか、東京MXテレビや関東県域局を使っているが、その方がきめ細かい祭りが拾えていると思う)
昨年はコロナ禍で全国各地で名だたる祭りが中止に追い込まれ、結局8地区のみの放送に終わってしまった。今年も35局での放送が予定されているが、果たして全てが何らかの形で実施されるのだろうか。昨年のCBCテレビ放送分の「三重・熊野のお綱掛け祭り」も中止に追い込まれてしまった。(今年も)
そんな中、今年のCBCテレビの祭りは愛知県新城市に伝わる「火おんどり」。昨年は中止となっている。番組中にも出てくるが世話役たちの苦肉の策として、関係者のみの実施となった。
今から450年ほど前、南下西進する武田勝頼軍と、織田信長・徳川家康連合軍が三河北東部で死闘を繰り広げ、武田軍の敗北となったが、両軍におびただしい死者が出た。日本で鉄砲が本格的に戦に用いられた教科書にも登場する「長篠・設楽原の戦い」である。戦場となった地区の住民が戦いに散った両軍の死者を弔う塚を作ったが、後にそこに蜂が巣を作り、村民に危害を与えた。村民は蜂を負けた武田軍の悪霊と恐れたが近くの寺の住職の指示により、松明を灯し供養したところ、不思議と蜂は姿を消したといわれることが「火おんどり」の始まりといわれている。
番組はこの歴史を振り返りつつ、昨年中止したこの祭りを何とかしたいと悩む世話役たちの姿から始まる。こうした民俗や自然を描かせるととても質の良い作品を作ることで知られる中日本製作所の坂田監督の作品だ。伝承が2年途切れると大ダメージだということは、この所毎年審査員をやらせていただいている「東海地区CATV番組コンテスト」に出品される地区の祭りを扱った作品を見るにつけ痛感させられる。本作では2人の小学生にスポットを当て、祭りの未来への思いも描いた。コロナ禍退散に込めた祈りも勿論盛り込まれている。
番組は奇をてらうことなく、字幕も最低限に抑え、人々の想いが映像から、少ない言葉から分かるようにオーソドックスに進行する。だから単調か、というとそうではなく、映像の考えられた画角、ドローン映像のタイミング、新城に溢れる緑と炎の朱色、闇の黒という色彩のハーモニーなど、「映像をして語らしめる」こうした番組に是非必要な要素はきちんと、いやそれ以上に押さえられていた。音楽もナレーション(CBC夏目アナ)も抑制が効いている。祭りそのものも、高山祭りや津島の天王祭などに比べたら地味なものだ。が、その裏にある人々の想いは規模とは逆に濃密に伝わった。こうした祭りこそ地元の大衆に染み込み切り離せなくなっているのだということがよく分かるし、それだからこそ、途切れさせてはいけないという世話役の思いもまたよく理解できるのだ。いにしえへの鎮魂の思いと現代のコロナ禍に寄せる思いが重なる。
筆者はこの所、NHKの4Kリストアされた「新日本紀行」を録画して好んで観ている。リポーターもいないし、グルメもない。フィルム映像にこだわった、まさに「映像をして民俗を語らしめる」作品群である。本作はこの「新日本紀行」に通じるものを感じたのだった。
この春の飛騨古川の起し太鼓もコロナ禍で中止となったが、東海テレビはこの状況を逆手にとったドラマを製作した。ローカル局の使命として、歴史に埋没させてはいけない民俗は、様々な形で記録していって欲しい。そういう点からも、このダイドードリンコの祭りシリーズは重要な番組であり、エリアの制作力を保持・向上させる面でもその役割は大きいといえるだろう。(KING)