「おいてけぼり 【9060家族】」(中京テレビ:ドキュメンタリー)

  • 番組名:「おいてけぼり 9060家族」
  • 放送局:中京テレビ(NNNドキュメント’21)
  • 放送日時:2021年10月24日 日曜日 24時55分~25時50分

本作の初登場は2019年の12月下旬であった。タイトルは「おいてけぼり~高齢化するひきこもり家族~」。それから取材を重ね、2021年の初夏にバージョンアップ版が放送されて、タイトルも上記のように変更された。最新版は今年の日本民間放送連盟賞報道部門中部北陸審査会で1位通過し、全国大会で優秀賞を受賞、また「地方の時代映像祭」では選奨となった。すでに評価が定まっった作品といえる。今更で恐縮だが、今回日テレ系ネット枠「NNNドキュメント’21」での鑑賞したので、感想を書き留めておきたい。筆者は初版を見ていると思う。というのは、対象となった家族に見覚えがあったから。その時はここに感想は書いていない。

さて、タイトルでも分かるように、90歳の親が60歳のひきこもりの子供の面倒を見るという状況が、事実を淡々と並べて、観る人に「こういう状況があるんですけど、どうですか」と感想を求めるタイプのドキュメンタリーとなっている。その演出が、一層胸に沁みる。ここまで家族を晒し、モザイクや声の変換も無しに、取材が出来たのは対応した担当ディレクター(女性)が取材対象から信頼を得ていたからにに他ならない。そのダイナミズムが遺憾なく画面に、インタビューに発揮されている。説明しすぎない練られたコメントの構成に乗った柄本明のナレーションも味わいがあった。

病理分析とか、社会学的解決法などを学者や専門家が出てきて解説することもなく、役所の担当が対応について語るわけでもない。番組はひたすら高齢の引きこもり家族を追う。そこに生まれる事象や事件を粛々と綴っていくのだ。この手法は出来そうでなかなか難しいと思う。逆にいうと、取材対象がそれだけ「多弁」であり、彼らの行動から出るものが力強かったということで、そうした幸運もあっただろう。いや幸運ではなく、ディレクターの誠実さと信念が幸運(対象者の番組的パワー)を呼び込んだというべきなのだろう。

35年間自宅に引きこもる52歳の娘、その娘の面倒を見るのは妻に先立たれた92歳の父。収入は年金のみだ。これだけではない。63歳になる長男も引きこもりなのだ。長男は月4万円もの金をパチンコで消してしまう。長女も変わらなくては、とは思っているのだが、そう思い続けてすでに35年も経過してしまった。そしてこの取材中に父が亡くなる。一人自活出来ている次男が妹の面倒を何くれとなく見ていく。次男の力添えで自宅から名古屋のアパートに引っ越し、一人暮らしを始める。兄と一緒にいると金を使い込まれると次男は断言する。味方になる家族がいることで見ている方は少し心が暖かくなる。さらに次男の友人たちとの触れ合いで長女の心は少しづつ開かれていく(ような気がした)。

番組では高齢の2人の引きこもりを主に取り上げているが、もう一つ忘れてならないのは、高齢の親の存在だ。しかもこの家族のように父親しか残っておらず、父親も自分の子がこういう状況であることに責任を感じてしまって殻に閉じこもりがちという状況は問題が更に大きい。9060問題は、家族全てに渡る問題であることを提示している。家族3人は自分たちが置かれている状況はちゃんと分かっている。分かっていて自分たちではどうしようもない。こうした切なくも力強い事実を並べていくことにより、視聴者は自分の胸に手を当てるだろう、こうした問題に社会は、国や地域は何が出来るだろうか、どういう手を差し伸べるべきなのか、と考えざるを得ないのだ。敢えて専門家の意見を挟まず、視聴者に考えさせようという試み。昨今説明しすぎの番組が多いなかで、いわば「放り出し型」の、出来の良い番組を観たな、と感じたのだった。目撃者となった視聴者は、傍観者となるのか、参加者になるのか。ただし、1回だけの放送では、いかんともし難い問題で、9060問題はデイリーのニュース番組で、引き続き取り上げていって欲しい。病理的な問題は?とネットを開いてみる人もいるだろう。そうした興味の輪を広げるチカラを持った番組だ。(KING)