「ハートフルワールド 西成編&女子大小路編」バラエティ論も(バラエティ・CBC)

  • 番組名:「ハートフルワールド 西成編&女子大小路編」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2023年2月13日(月)、27日(月)午前0時59分~1時29分

単発(といっても2回放送だが)で面白そうな30分番組があったので観てみた。先回書いた正月特番の稿で最後にこの番組についても書いてみたいとしておいたこともあり。つまり今ヒットしている中京テレビ「オモウマい」「PS純金」の企画のタッチを汲む、現場で出会った人物第一主義、ディレクター一人での勝負、表向きの主題(例えばグルメ)を描きつつ「人間ドキュメント」の面白さが成功の最大要因となっているなどの点が共通しているのではないか、と思えたからだ。

その後つらつら思うに、今ヒットしているバラエティ番組「ポツンと一軒家」「ナニコレ珍百景」「鉄腕ダッシュ!」「クレイジー・ジャーニー」等もこれに相当するだろう。過去にあった「地名しりとり」なんかも大枠では似ている。つまるところ「事実は小説より奇なり」なのだ。身もふたもないことを言えば制作費がかからないという点もあるのかもしれない。ただディレクター一人なのは残業や休日は大丈夫だろうか、と心配にはなるのだが。スタジオにタレントがいてコメントするということを除けばドキュメンタリーになるようなネタがバラエティになる時代だ。「オモウマ」はその最大の金脈を当てたということが出来るのではないか。間違うとキワモノ狙いに陥る、ヤラセの危険をはらむ危うさが終始つきまとうから最大限の「コンプライアンス」とのせめぎ合いだ。

前置きが長くなった。「ハートフルワールド」である。この番組はまだ2本しか放送されていないのだが、2回を見た限りでは「世の中のササクレだったエリアで、心温まる人や場所をD一人で探す」というものだ。故にどれだけ番組を観ている人との距離を感じさせつつ、逆にシンパシーを感じさせるかが勝負で、どういう人と出会うかがすべて。1回目は何故かエリアを離れて大阪は西成「あいりん地区」に入った(クレイジー・ジャーニーっぽい)。つかみ?に登場するのは小指が無かったり、もうずっと自分の家族に会っていないヤクザくずれ。そしてメインディシュは「西成の歌姫」ことジャズシンガーの坂田圭子さんだ。この人と出会ったことで番組が決まった。この坂田さんだけで1時間のドキュメンタリーが出来る、そのくらいの迫力ある人物だった。

2回目は地元名古屋の女子大小路(今でもこう呼ぶのかな)。池田公園あたりだ。危なさが西成に似ているところはある。ただし外国人が多い。周辺のささくれ立ちが目立つほど、出会う人の「ハートフル」度は上昇する。つかみは風俗で働く女性やホスト。でメインディッシュはゲイとして生きているものの親にそのことを言えず、何とか両親にカミングアウトしたいと悩むゲイバーのバーテンダー、「ゆんと」さんだ。番組中電話で父親と10年ぶりに会話し、幼い頃から自分は女性に興味がなく、それをひたすら隠して来たことを打ち明ける。どんな頑固おやじが出てくるかと思ったら、これが実に話せるオヤジさんで、彼が小さい頃からうすうすそうなんじゃないかなとは思っていたそうだ。そして、ゆんとさんが決めた道ならその道で成功しろよ、応援するとも。なんだ、いいオヤジさんじゃないか、早くいえば良かったね、と観ている人は思うだろう。でもそう出来なかった彼の心中や社会環境を思わなくてはならないのだろう。

スタジオ(お決まりのクロマキーバック)にはマヂカルラブリー村上と、YouTuberゆんがいてコメントを加える。視聴者代表だ。確かにこの二人が(いいかどうかは別として)いなかったらバラエティ色は薄くなり30分ソフトドキュメンタリーになるのだろう。つまり今の視聴者はバラエティに作り物は要らないという傾向があるということなんだろう。古い話で恐縮だが「夢であいましょう」「シャボン玉ホリデー」「8時だヨ!全員集合!」「今夜は最高!」「とんねるずのみなさんのおけげです」など、バキバキに構成され演出されたバラエティーを面白がって観てきた筆者にとっては、時代が変わったなと思う。今テレビ界で「構成された面白いバラエティ」をきちんと創れる演出家はいないんじゃないか(コンプラという魔物の存在もあろう)。筆者の大好きな「ブラタモリ」は地学と歴史の絡みの面白さをタモリの地学的知識に驚愕しつつ楽しむという「教養娯楽」番組であって「バラエティ」とは言えないだろう。「きちんと構成されたバラエティ」とは今や大衆から要求もされない時代なのだ。テレビ番組企画は時代と共に変遷するのは定めとはいえ筆者としては寂しいことだが。いささか話が横道にそれた。

「ハートフルワールド」、珍しい企画ではないけど、奇をてらうことなく、ストレートで人と街を見せることに好感は持った。30分でまとめたのも良い。けど、これメインディッシュに相当する人物に当たらないと苦戦するだろう事は明確だ。それと長時間かける一人取材に現場が疲弊しないか、労務について人事辺りから突っ込まれないかそんなことが心配だ。単に人件費や制作費をケチって企画一本でやろうとするスケベ根性が編成にあるのだとすれば、「オモウマ」は相当のスタッフと気の遠くなるようなリサーチとボツ取材を経ている上での成功という点もきっちり押さえておく必要がある。「ハートフルワールド」、不定期放送にしばらくは期待してみたい。(KING)