「こどもディレクター」(中京テレビ:教養?エンタメ?ドキュメント?)

  • 番組名:「こどもディレクター」
  • 放送局:中京テレビ
  • 放送日時:2023年6月11日(日曜日)午後3時55分~午後4時50分

本サイトの執筆者である中島氏が本作について書かれるという情報を得て、当番組が気になっていた筆者は私も書かねばと録画しておいたものを慌てて視聴した。

素直に面白かった。そして中京テレビは「オモウマ」で掘り当てた金脈(手法)を上手く次なるステップに昇華させているな、という事に思いがいった。本作はおおよそ20歳代の若者にカメラを渡し、自分の親に訊きたいこと、自分が告白したいことなどを自由に回して来てもらい、そこで展開される未知の人生模様を「知る」事による感動や共感を視聴者に提示するもの。この手法は、「オモウマ」で繰り広げられている一般市民を対象にした人生ドキュメントの「アナザーバージョン」ともいえるものではないかと直感した。(個々の内容については中島氏の論評に詳しいのでこの場では重複をさける)

筆者らが現役の頃には許されなかったようなカメラアングルやピントのボケとかは関係ない。それは「オモウマ」でも一緒。本作で特徴的なのは、テレビカメラ(小型で傍から見ると民生用とも思えるもの)を、これはという若者に渡し、一晩二晩で、カメラを介した親子の会話を捉える取材方法だ。このカメラという存在が親と子の上手い媒体になり、本音を引き出すツールとして活用されているとこが新しい。親と子の間に、カメラがある、というだけで何故か人は本音を語り始める。そこに局のカメラマンはいてはならない。(他人が介在しては話の純度が落ちる)

街なかでこどもディレクターとなってCTVからカメラを借りてカメラを家に持ち帰る。そこでカメラはあたかも親子の会話の反射板のような独特の役目を果たしているのが興味深かった。カメラがあるから話しやすい、という環境があるのだ、という点に目を付けた企画者のアイデアを買う。カメラクルーとディレクターが一緒に付いていって同じような趣旨のことをした番組があった記憶がある(おそらくCBCじゃなかったかな)。しかし本作はアップデートされていてい、手法が今日的である。

当然、エンディングに流された小ネタ以外にもボツになったり断られたりした対象は数多あったのだろう。見方によってはYou Tubeチャンネルでもいいんじゃないか?とも思わせるフットワークの軽い作り方ではあるのだが、そこに見える「大家族」のようなネタとは違う(大家族ものもそれなりに面白いのだが)、オリジナルな各家庭の個人的事情の誠意ある吐露があり、それが視聴者の共感を呼ぶ仕掛けとなっている。気をつけないと「他人の生活を覗いてみるだけ」という人間の原初的欲求を満たすための程度の低いものとなってしまうのだが、この番組には思わず正座をして聞かなければ、と思わせる「人間の生き方」の提示があるのだ。

筆者が一番惹きつけられたのは最後に登場するこの番組のディレクター自身がこどもディレクターとなって母に会いに行く部分だった。(禁じ手と紙一重の人物選択)けっこうおちゃらけた母ではあったが、夫婦の、家庭の事情、子どもへの愛情がそのキャラクターもあったが、おちゃらけの背後にある母の想いがいい感じでまとめられていた。「親は子どもが健康で生きていてくれればそれが親孝行だよ」とは至言であった。

タイトルと作りはライトだが、それぞれの子どもディレクターが、取材してくるネタは思わず胸に手を当てて自分ごととして考えさせられる重さを持っている。聞けば本来こどもの日に放送するはずが能登の地震特番で飛んでしまい、この日のオンエアになったようだ。そしてそれ以前の4月にも1本放送があったということだ。

この手法、不定期でも制作を続けていって欲しい。更に、「戦争」「政治」などをテーマにした硬いやつも、折りに触れ制作し、「硬派版」もあるといいのになあ、と筆者は思うのだ。(KING)