- 番組名:「ハートフルワールド 2025年3月編」
- 放送局:CBCテレビ
- 放送日時:2025年3月8日、15日、22日、29日(土曜)午前0時28分(30分番組)
「ハートフルワールド」11作~14作である。この番組は当サイトにも何回か感想を書いてきたが、この3月も何だか書かずにいられなくなった。それは毎回登場する「メインディッシュ」に当たる「主人公」たちの「ディープな世界」に心を動かされて(しまって)いるからだ。この番組に登場する人物は普通のニュースやドキュメンタリーには登場しないタイプの人生を生きている人たち。本作の制作陣は相当長い時間をかけて30分1本を作っている。狙ったシークエンスの「メインディッシュ」に当たるまでは取材を続けているのだろう。その懐に飛び込んでホンネに迫るまでにも時間はかかることは容易に想像がつく。スタッフの努力はしっかりと番組のパワーとなって表れている。
11作目は「名古屋拘置所編」。「メインディッシュ」は、拘置所前で出会った「美樹さん(67)」だ。最近入籍したが麻薬に絡む高齢犯罪者同士の夫婦。そんな夫婦の独特の愛情の有り様が描かれる。12作目は「名古屋・中村遊廓跡編」。大門のソープランドで働く「リエさん(38)」。薬物絡みで刑務所に行ってしまった夫と離婚し、二人の娘は元夫の母親に引き取られ九州で暮らしている。10年間リエさんは大門で働き、仕送りをし貯金をしている。二人の娘と遠く離れて暮らす、親子の会話はLINE電話のみ。そんなディープな親子の関係をまるで本人の横にいるように追体験する。彼女の口から出る「夢」「プライド」という言葉が重い。
13作目は「京都・東九条編」。在日コリアンの集住地区として知られるエリアだ。まず、家族で廃品回収業を営む老人(男性)に出会い、差別の実態・苦労を知る。次いで朝鮮人と日本人の融和を願い「マダン」という祭りを仕切る在日2世と出会って、在日の思いを引き出す。そしてハイライトは番組スタッフが32年続いた焼き肉店の閉店に偶然立会う事になり、店の客や女将の思いを知るシークエンスだ。女将は「この街に嫁に来たのが幸せ」と語る。その裏にある彼女の人生を思う。14作目はヒップホップの街として知られる「神奈川・川崎編」。この回の主人公は元不良の二人のラッパーだ。怖い街ともいわれる川崎で自分の、もがき苦しむ人生をラップにして歌う二人の22歳の男たちの想い。幸せの尺度とは何だろうかと思う。
この番組は配信を意識して制作されているので取材エリアは全国に渡る。エリアを意識せざるを得なかったローカル放送局の枠組みを飛び出し半期に一回集中して地上波で放送し、サブスクで配信している。作り方も従来の地方局のやり方ではない。ターゲットによっては半年でも1年でも追いかける。私たちの現役時代の番組の作り方とは全く異なる手法だ。そうして出来上がってくる一本30分の「ハートフルワールド」は、当初「クレイジージャーニー」みたいな作りかと思ったが、そうではなく、対象者に静かに寄り添って淡々とその人の人生を語ってもらっている。その回の番組が始まってからしばらく続く小ネタからの導入やその回の場所の背景説明を含め、ナチュラルさが観る人を番組に引き込んで行く。
「よくぞこういう人物をつかまえて来たよな」、という思いを深くする。「運も実力の内」ともいうが、この番組については「運」だけではないな、と感じさせる。制作サイドが「人生って何なのかを考えてみよう」と大上段に構えて番組を作っていないところが良いのだと思う。この番組の視聴者の「人を見る思い」の幅が広がればいい、そういう制作側の思いを感じる番組であり、そこが心地良いのだろう。30分という時間もいい。1時間番組にしないように。(配信を意識すれば30分が適切だとは分かっているはず)次回は9月と予告されている。楽しみに待とう。(KING)