戦後80年。各局の関連番組を観て・・・

  • 番組名:戦後80年特番を観て・・・(長文です)
  • 放送局:NHKと民放各局
  • 放送日時:2025年8月15日を中心にした夏

今年は戦後80年ということで、地上波テレビは各局特別番組をたくさん放送した。観てみたいと思わせる番組も多かったので、録画して出来る限り観てみた。当然重苦しい番組が多いので、8月16日過ぎる頃には鬱な気分に覆われてしまった。しかし、戦争を知らない世代に(私もだが)二度と戦争を繰り返さないという強い想いを繋いで行くことは大切であって、まだまだ地上波テレビの役割は小さくないと感じた。世界中に非寛容の空気があふれる昨今、このテレビに対する想いを筆者は強くしたのだった。但し、制作者が戦争から時間的にどんどん離れていくという物理的なハンディを乗り越えるため、表現されていることが適切かどうかを自問自答し続けることも大切だろう。今年はローカルにとどまらず全国放送を中心に観た想いを少し残したい。

観た番組を鑑賞順に並べる。映像の世紀
「映像の世紀 バタフライエフェクト 高精細スペシャル ヨーロッパ 2077日の地獄 全3部」(NHK総合)、「ETV特集 火垂るの墓と高畑勲と7冊のノート」(NHKEテレ)、「【戦後80年ドラマ】八月の声を運ぶ男」(NHK総合)、「戦後80年特別番組 なぜ君は戦争に?綾瀬はるか×news23」(TBS)、「池上彰と考える!戦後80年~戦争のない未来のために~」(メ~テレ・ローカル)、「NHKスペシャル 新・ドキュメント太平洋戦争1945 終戦」(NHK総合)、「金曜ロードショー 火垂るの墓」(日テレ)、「NHKスペシャル 新・ドキュメント太平洋戦争 最終回 忘れられた悲しみ」、「NHKスペシャル シミュレーション昭和16年夏の敗戦 ドラマ×ドキュメント 前後編」(NHK総合) 以上13本。加えて民放各局の夕方のニュース情報番組。

この他にもたくさんの戦後80年がらみの番組が流れた。ローカル各局はほぼ特番を組まず夕方のワイド番組の中でシリーズ物として企画され放映されていた。先述のように節目の年だからただ作れば良いというものではないのは当然のことで、どう見せるか、特に若い年齢層に観てもらえるかが要だった。そうした点から言えば、予算と掛けられる時間と動員力と編成の融通という圧倒的な差でNHKのチカラを改めて感じた。国との距離感という点から見ても頑張って作った(反戦という筋が一本貫かれていたと受け取った)といえると思う。Eテレも含め、見せ方を工夫し、様々なアングルからのアプローチに優れた作品が多かったと感じた。

中でも筆者が評価したいのは「新・ドキュメント」と「シミュレーション昭和16年の敗戦」であった。前者は戦時中、そして戦後に至るまで、一般市民の日記を中心に、個人の視点から視聴者に戦争を追体験してもらう狙いだ。時に作家などの著名人の日記を挟みながら「エゴドキュメント」としてナレーションで綴った(声の出演も豪華。國村隼、豊川悦司、西島秀俊、橋本愛ら)。凄かったのは映像。過去のニュース、写真、日記の字幕表記及び実写、中でも印象的な心象風景の再構築で描いた。演出力が問われる作りだ。また膨大な日記を読破し、肝になる部分を抽出する作業も大変だったろう。広島で被爆し家族を失った父親の日記も登場する。庶民が国のリーダーたちに不幸の淵に追いやられる過程が情緒に流されることなくドライに綴られていた。シリーズが組まれていたとは迂闊にも知らなかった。エバーグリーンな労作であった。

「シミュレーション・昭和16年の敗戦」は、猪瀬直樹の著作をベースにしたドラマ(前後編)だ。実在した「総力戦研究所」の若き俊英たちが開戦前に「日本必敗」という結論(予測)を報告するものの、結局東条らリーダーたちに聴くチカラがないので、彼らが予測した通りのひどい結末となった(原爆は予想外だったという)。映画界の旗手石井裕也が脚本を書き演出した。ここで注目したのはキャスティングだった。反戦ドラマを「いかに観てもらうか」「魅せるか」という点にNHKはこだわったと思われる。池松壮亮を主演とし、佐藤浩市や江口洋介、二階堂ふみ、奥田瑛二、別所哲也、松田龍平らの主役級を脇に据えての豪華版に仕立てた。映画製作のノリである。放送100周年というくくりも応援したのだろう。民放でここまでやったら制作費の回収が大変だ。番組の内容も結論が分かっているので主張が明快で、強力な演者らの存在もあり興味深く観終えることが出来た。多くの人の目に触れたことを祈る。

上記2つの番組から筆者が受け取ったキーワードは2つ。「熱狂」と「空気」だ。これらは今の時代にもしっかりと当てはまっている。米国の政治や先の参議院選挙を見ても分かるように、「熱狂」からは距離を置きたい。「待てよ」という冷静な目が必要だ。「空気」についてはドラマ「シミュレーション」を監督した石井裕也の言葉を借りよう。「当時の日本社会に漂っていた不気味な「空気」は、確実に引き継がれて今の社会にも存在するから(以下略)」<NHK番組ホームページから引用> 戦時中日記を書いた市民も、敗戦後に指摘している。一度動いてしまった空気はもう誰にも止められなかった、と。重要なキーワードを残してくれたNHKのこの2つの番組は筆者にとっても貴重だった。

ローカル編成にも触れておかなくてはならない。在名各局は夕方の情報ワイドを中心にシリーズ企画で奮戦していた。筆者宅のデフォルトは「チャント!」なので、そこを中心に視聴したが、記者をベルリンまで飛ばしてドイツの戦争教育と日本のそれと比較したり、特攻は空だけでは無く、洋上や陸戦でもあったことなどを特集して伝えた。また各局も「語り継ぐことの大切さ」を中心に特集を組んだ。今年は戦後80年という長さに、「語り継ぐ」が全局のキーワードだったように思う。

しかし永六輔はこうも言う”戦争体験を伝えろって、誰が誰に伝えるんだよ。戦争なんてものは伝えられるような、なまやさしいもんじゃない。戦争なんてものは反対だけしてりゃいいんだよ。” また高畑勲は別アングルからこう指摘している(中日新聞8月22日付夕刊記事より)「”自分たちが受けた悲惨な体験を語っても、戦争を防止することにはならないだろう、と私は思います”。なぜなら戦争を始めたがる人は、悲惨な被害を避けるためとして、「軍備を増強しなければいけない」と主張するから。」(以上引用)

戦争に良い戦争や、悪い戦争があるわけもなく、「絶対悪」としての戦争を常に多面的に問う姿勢が望まれるのではないか。戦争に想いを致す、という「トレンドを社会に形成する」手段としての、地上波テレビや新聞という所謂オールドメディアの特性と影響力はまだまだ重要だと思う。新聞は未だに連載企画を掲載しているし、JNN系は1月から年間を通して「戦後80年プロジェクト つなぐつながる」という企画をレギュラー番組を使い系列局も参加して制作している。この継続力が重要だ。

戦後80年を企画・制作したすべての放送マンに感謝しつつ、引き続き戦後の世の中が続くよう非戦・反戦を貫く多面的なアプローチの放送を期待したい。(KING)