「ハートフルワールド」(2025年秋編)

  • 番組名:「ハートフルワールド」(2025年秋編)
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2025年10月18,25,11月1,8日(土曜)午後5時~30分

半年ほど前に、この番組のプロデューサーでディレクターも務めるCBC下野氏を当会の例会にゲストとしてお越しいただき、制作上の話を聞く機会があった。考えさせられる事が多い貴重な場であった(その時の内容は柴垣さんが投稿されているのでご一読されたい)。その時点で既に取材が進んでいた企画も含めこの秋、一挙4本が連続して放映された。

ディープさは更に深まっていた。どれも見応えたっぷりの番組であったが、中でもインパクトが大きかったのは前後編に分けて放送された「京都・紙屋川砂防ダム編」だった。2週に渡る本作が放映を終えた頃に、当会例会が開催され、当然ながら話題にのぼった。メンバーから出された感想は「内容を考えると編成が良くGOを出したね」「被差別部落の問題を日本人と在日コリアンの2つ側面から多層的に捉えていて見応えがあった」「取材を一年間粘ったのは凄い」「2週に分けたのも、取り上げた対象をしっかり学んで、という作りの丁寧さが見えた」など称賛する声が多かった。私たちの世代では被差別部落問題は、敢えて触らないという暗黙の了解があったように記憶している。もちろん同和問題勉強会などは開催され、取材者としての勉強はしていたのだが。こうした問題をコンプライアンスやプライバシー問題が一層厳しい昨今に取り上げ、そこに横たわる人の温かさと課題を指摘した意味は大きいと感じた。今の若い視聴者は同和問題など知らないのではないか。そういう時代に、である。

本編で大きな役割を担ったのは自ら取材地区の被差別部落出身者であると明らかにしている仏教大学教授の後藤直さん。大学で人権問題を教える一方、被差別エリアを支援するなど信頼が厚い方だ。後藤さんをきっかけに取材者は住民へのアプローチが可能となっていく。そして後編ではその結果、心の扉を開けてくれ、スタジオのヒコロヒーを感動させる話を聞かせてくれた78歳の在日コリアン女性だった。

3作目は依存症支援回復施設「名古屋ダルク」、4作目のヒッピーが集う村「福島・獏原人村」と続いたが、このシリーズの大きな魅力の一つは毎回登場する「主役級の人物」が語る彼らの人生だろう。視聴者は自らのそれに共振させ投影するに違いない。「あなたの知らないハートフル(温かさ)がある」と番組冒頭でも語られるように。ディレクターはそうした人物に出会うまで時間を掛け、多くの人の話を聞き、懐に飛び込み心を開いてもらい、番組に相応しいか(暖かいか)を見極める。そこが番組の生命線だ。大変な精神的負担、時間が必要だろう。そうした側面も含め番組の企画意図のハードさを考える時、30分間という放送時間は作り手にも観る方にも丁度いいといえる。

地上波テレビが敬遠する企画に敢えて挑戦し、ハートフル(人間の温かさ)とその後ろにある課題に迫る「ドキュメンタリスト魂」を感じる番組だ。次回は来年3月と予告された。期待は高まる。(KING)