- 番組名:「ザ・ベストテレビ2025」
- 放送局:NHKBS
- 放送日時:2025年11月24日~27、29日 深夜~未明に放送)
NHKはここ数年毎年「代表的な放送関連のコンクールで、この1年に最優秀などに輝いた番組を放送」(民放ONLINEより)」している。今年は11月末の5日間の深夜(未明)に5本が放送されたので録画して鑑賞した。在名民放での番組ではないが、関係番組もあるので、その時の感想を少し書き留めておきたい。
今年放送されたのは以下の5作品。(データはいずれも「民放ONLINE」より引用)
【11月24日(月)、24:45―25:54】
▶BS12トゥエルビ(ワールド・ハイビジョン・チャンネル)=#つなぐひと~わたし、義肢装具士になりました~(24年日本民間放送連盟賞テレビ教養番組最優秀)
【11月25日(火)、24:05―26:01】
▶NHK=NHKスペシャル「調査報道・新世紀 File3 子どもを狙う盗撮・児童ポルノの闇」(前編・後編)(第51回放送文化基金賞ドキュメンタリー部門最優秀賞)
【11月26日(水)、25:20―26:32】
▶名古屋テレビ放送=メ~テレドキュメント「掌で空は隠せない~1926木本事件~」(第44回「地方の時代」映像祭2024グランプリ)
*26時27分ごろから「第62回ギャラクシー賞」テレビ部門の優秀賞・選奨などのダイジェストも放送。
【11月27日(木)、25:30―26:37】
▶信越放送=SBCスペシャル「78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~」(24年日本民間放送連盟賞テレビ報道番組最優秀、同賞テレビグランプリ)
【11月29日(土)、25:15―26:33】
▶ビジュアルオフィス・善、NHKエデュケーショナル/NHK=NHKスペシャル「法医学者たちの告白」(第41回ATP賞テレビグランプリ)
スタジオゲストに森達也(作家・映画監督)、ヴァージル・ホーキンス(大阪大学大学院教授)、河合香織(ノンフィクション作家)の各氏と各最高賞受賞作品の制作者を招き、意見を聞く。最大の見所は担当ディレクターの声を聞けることだ。
どの作品も力作で、メーテレやSBCスペシャルについてはここでも書かせて頂いている。過去を調べ現在の私たちの生き方を考えさせるものと、現在起きている事件や不合理を深堀りするものに大別される感じで、全作品ともに調査報道の意義を考えさせるものであった。オールドメディアと言われ嘲笑もされる従来形のテレビ放送だが、こうした良心的かつ啓発的な番組を制作している。それをNHKが深夜とはいえ(今はNHKONEで観られるという武器も手に入ったが)まとめて放送し、さらに世に知らしめる編成をしている意義は決して小さくない。
この5本の中で私が一番印象深く観たのが「第41回ATP賞テレビグランプリ」でグランプリを獲得した「ビジュアルオフィス・善」と「NHKエデュケーショナル」が制作し、NHK総合が「NHKスペシャル」で放送した「法医学者たちの告白」だった。表舞台の影に隠れがちではあるが裁判では極めて重要な証言となる死因や死亡推定時刻を割り出す法医学者の医師たちの現状に対する告白を追った調査報道である。日本の法医学の現在の問題を明確に告発する法医学者たちの心情がもの凄い迫力を持って迫ってきた。
「ドラマでは万能なヒーローとして描かれる法医学者。しかし現実には計り知れない重圧の中にいる。これまで明かすことのなかった葛藤。法医学者たちの初めての告白が始まる」という國村隼のナレーションで番組は始まる。番組は60分の間に、現在の日本の法医学がいかに弱い立場にいるか、有罪率99%と言われる刑事裁判における検察有利な誘導、裁判官の保身、偏見、国の無理解、予算の貧弱さを「袴田事件」などの現実に起きた事件を例に挙げて告発していく。
また法医学制度が国際的に見て中立を担保されていない珍しい国となってしまった日本との差をハワイまで行き、アメリカの独立した組織としてのメディカルエグザミナーと比較し、日本の不備を突いてみせる。語るのは日本での司法解剖制度に限界を感じてアメリカに移住した日本人法医学者だ。日本に戻る気はないという。アメリカの組織のありようや司法のどこのセクションにもバイアスがかからないよう客観性を担保する制度、与えられた権限などを見るとそう考えるのも無理はないと強い共感を覚えたのだ。
番組の最後に我が国の法医学の第一人者千葉大学医学部法医学教室の岩瀬博太郎教授が「何なんだ、この国はって思いますよね」という強烈な告白をする。また東大のある教授は某判決を「中世時代並の暗黒裁判」と断じる。彼らをしてそこまで言わしめる我が国の法医学制度とは何なのか。法医学という側面から日本の司法全体の歪みも感じさせるのに十分だった。NHKがこれを作って放送するか、と驚きもした。(このことについては「ETV特集 琉球ノワール」で更に思いを強くしたので稿を改めて書きたい)スタジオコメンターの映画監督森達也氏は、本番組を「優れたヒューマンドキュメントでもある」と評価した。
観たあと余りの衝撃で心がどっと疲れてしまったが、こうした地味ではあるが大変重要な問題をプロダクションが制作し、NHKがゴールデンで放送するというところが、今やトランプのアメリカでは危うくなりつつある報道の自由がまだ日本にはあると思えたのだった。昨年やはり多くの賞に輝いたTBSの「報道特集」というレギュラー番組の存在も含めて。この番組たちはまだNHKONEで観ることが出来る。在名のドキュメンタリスト、報道記者たちに是非観ておいて頂きたい番組だ。全作観るのはかなり大変な作業だったが充実した時間だった。(KING)