- 番組名:「大誘拐2018」
- 放送局: 東海テレビ
- 放送日時:2018年12月14日 19時57分~21時49分 フジテレビ系全国ネット
「天藤真の本小説は大好きである。週刊文春の「20世紀傑作ミステリーベスト10(国内編)」で堂々の1位を獲得している傑作だ。また1991年には岡本喜八のメガフォンにより、北林谷栄、緒形拳らで映画化もされている。批評子は原作も読み映画も観ている。
放送されると聞いたとき、「エラいものをドラマ化したなあ」というのが正直な気持ちだった。というのも、本作は文庫本で450ページにもなる長編ミステリで、人間関係の綾がきめ細かくかつ大胆に、コミカルさも加えられ奇想天外な物語が、実に魅力的に描写されているため、およそ映像化は難しいだろうな、と思っていたからだ。
事実、岡本喜八の映画は、犯人役の風間トオルらの演技のマズさも手伝って原作の機微をうまく掬い上げているとは言えず、本作品の映像化の難しさを露呈していたと感じていたからだ。
というわけで脚本を担当した当代の売れっ子、宅間孝行はどういう本を書くのか、そしてどんな演出が行われるのか非常に興味があった。正味1時間45分そこそこのドラマにどう構成するのだろうか、と。
前置きが長くなったが、観終えて思ったのは、タイトルに2018と付いている通り、本ドラマは原作とはかなりその思想が異なっていて、別物と捉えたほうがいいだろうということだ。
で、別物なりに「破綻なく普通に楽しめる、”突拍子もない”誘拐劇」に仕上がっていたのではないか。原作の流れも一応はなぞられている。
なんと言ってもドラマの核となる富司純子の怪演が良かった。原作が持つ「人を喰った」感じがよく出ていた。その他のキャスティングについても成功していたと感じた。
ただふんだんに取り入れられていた三河弁は私は使い手ではないので正確に使われていたのかどうかは残念ながら分からなかった。
物語を上手にコンパクト化した宅間の力量は認めねばなるまい。ただ、オスプレイや今年の豪雨被害を税金の使い方への不満に使うのには今日感を狙ったのではあろうが、いささかのあざとさを感じた。
(言いたいことは確かにその通りなのだが)それらを使うならばもっと映像に語らせて欲しかった。
(ニュース映像を使えば済むということではなく)昨今のドラマは全部セリフで説明するので、観ている人の想像性を刺激しない、畢竟、せっかくのドラマに奥行きを感じ無くなってしまう。本作だけではないが、今日びのテレビドラマの悪い傾向だと感じている。
原作も映画も知らない視聴者は、三河の山林王である女主人公の奇想天外な誘拐劇としてそこそこ面白くは観られるだろうが、やはりドラマとしての底の浅さはとってつけたようなセリフを加えたとしても透けて見えてしまっていた。
蛇足ながら、冒頭のシークエンスで警察が誘拐に際し、『報道規制要請』と叫ぶところがあるが、それを言うなら『報道協定』なのじゃないかな。そのあたりは『64(ロクヨン)』(NHK)の考証の緻密さを観て欲しいところだ。」(KING)