- 番組名:「HOME(ホーム)」~闇サイト事件・娘の贈りもの~
- 放送局:東海テレビ
- 放送日時:12月25日(火曜日)午後7時~8時55分
2007年に名古屋で発生したこの事件は、発生当時その無慈悲な残虐性から、マスコミもさかんに取り上げていた。その事件を題材に、ドラマとドキュメンタリーを融合させ、事件の持ついくつかの問題点を視聴者に訴えた作品だ。東海テレビのドキュメンタリー制作では名前の知れた阿武野氏がP、斎藤氏がDを務める盤石の布陣。と、思って観始めたら、実にいろいろなことが頭に浮かんできた。前半とラストのドラマの演出は(本来ドキュメンタリストの)斎藤氏の手によるものだろうか。気持ちの悪い間などドラマの完成度(演出・脚本とも)が高いとは言えず、編集のマズさも出てしまい、主張と緊張感が削がれていた。
番組は冒頭に何を持ってくるのかで、作品全体が言いたい事に繋がる大事な「認知のきっかけ」を視聴者に掴んで貰うという点で重要である。何も知らない人は冒頭からの1時間20分は何が始まって何が展開しているのか、どういう番組か、理解しづらかったのではないか。
私なら、事件発生日、あるいは主犯が闇サイトを覗いているシーン、またはドキュメント部分の冒頭に出てくる母親がリビングの大きな木を愛おしく清めるシーンから始めそうだ。
ドキュメンタリーでは描ききれない部分をドラマとして構成し厚みを付けたかった旨、HPに書かれているが、それにしても1時間20分ほどは長すぎた。犠牲者の幼い時代を描けない、というならドラマは諦めて後半のドキュメント部分で被害者の幼い頃の写真が沢山出てくるので、それを元に構成も出来たのではないか。つまるところ、この作品は東海テレビお得意のドキュメンタリーで全体を仕立て上げたほうが良いものになったのではないか、ということだ。どうしてもドラマを入れたいというのなら、冒頭とエンディングの15分づつくらいにコンパクトにしたほうが良かった。何やらドラマとドキュメントの融合という企画ありき、な無理矢理感を感じてしまうのだ。
後半のドキュメンタリーは取材時間も長く良く出来ていた。事件発生当時から私は犠牲者の母親のキャラクター(この言葉がこのケースに適切かどうかは迷うところ)が事件の持つ社会性にインパクトを与える役割として非常に魅力的だと思っていた。事実、彼女は本作のドキュメント部分では発する言葉に非常に説得力を持ち、生き方を含め人を引きつけるチカラを持つ方だった。それだけに余計に母を主人公としてドキュメンタリーにまとめ上げたほうがスッキリしたのではと感じた。(主犯神田死刑執行後の父親のドア越しインタビューの成功は出色であった。ここで私達は「ごく普通のこどもが愛情と理解の欠如で犯罪者に転落してく構図」を掴むことができるのだ)
結局「一人殺害だって死刑にして欲しい、という市井の人なら当たり前に思うことが司法の世界では常識ではない。被害者目線を司法は持って欲しい」、というのが番組の(犠牲者の母親の)主題ではなかったか。無用に長いドラマが主題を薄めてしまった感じさえしてくる。ドキュメントの部分の出来が良かっただけに余計にもったいないと思えた。
だいぶ腐してしまったが、ドラマと犯罪ドキュメントの融合という新しい試みにチャレンジした心意気は買いたいし、これをクリスマスのゴールデンに2時間枠で(ローカルではあるが)放送した編成にも敬意を評したい。今後はこうした取り組みの練度を上げ、更に上質な番組を製作されることを祈っている。因みにHPへの書き込みは激賞の嵐である。(KING)