THE 世界力3

番組の冒頭大沢たかおがロンドンにリュックを担いて歩いている。なんとも既視感のある映像だった。大沢たかおが、スポーツキャスター張りに3人の世界的アスリート・錦織圭、大坂なおみ,吉田麻也に直にインタビューするという特別対談番組だった。なぜ彼が起用されたのか、とても興味深く見た。大沢たかおは、現在イギリスのロンドンに住みトニー賞受賞俳優渡辺謙と共演と、週に一度は代役として「王様と私」のメインを張っていた。25年ほど前に私がプロデュースした「深夜特急三部」三部作をアジア中東、ヨーロッパを旅しながら2年ほど文字通り寝食を共にした仲であり、記録写真集のあとがきに俳優として彼への賛美として、「意地っ張りの俳優」とエールをし、どんな役柄もその意地っ張りを武器にこなすことができる俳優として成長してほしいと書いたことがあった。噂は知人から聞いていたので知っていたか、まさかロンドンで謙さんと一緒にブロードウェイミュージカルに挑戦していたとは驚きだった。 今回の番組は、その大沢たかおの新境地を武器に対談させようという好企画だったと思う。3人のアスリートに会う時の服装はスーツを身にまとい、時折自ら作ったと思われる取材ノートかノートブックらしきものを手に持ちながら聞きこんでいこうと姿勢が何よりも気持ちよかった。大沢が実際に旅しながら、彼らの強さの秘密を解剖しようとしているので、三人のアスリートも、生返事もできずに、まじめに本音をさらけ出していったのではないだろうか?全米でのセリーナを打ち負かした時の大坂が発した「sorry」の意味、負傷して復帰最中でのチリッチ戦で4時間半の死闘を制した錦織の成長の裏側、ワールドカップでブーイングを浴びながらも、パス回しに終始した中心選手吉田の主張「日本のサッカーの将来」をかけてという言葉が、意味を持って響く。最後の錦織の大坂への「どんなタイプが好き」という愚問に、顔なら「大谷翔平」と答えたところなど、番組のちょっとした成功の一つかもしれない。
今回大沢は、沢木耕太郎ばりにアスリートの内面に切り込もうとしていたように思う、饒舌に自説を展開するよりも、最良の聞き役に徹しようとしていたのかもしれない。
旅しながら体感した三人のアスリートの裏側を、まとめる最後のナレーションで「世界力は上り詰め極める力だと思っていたが、生き延びる力と感じた」と語る場面が、耳に残った。三人のアスリートのインタビューと、自らの孤独な挑戦を体験した後の本音。スポーツ番組にはないアスリートの本音と素顔が覗けたよい企画だった。25年前どんな役もやるように書いたが、まさか大沢たかおがキャスター役をやるとはビックリだった。
今回も東海テレビ60周年企画。ローカルも世界も、テーマにする局の意気込みが感じられる。可能なら大沢たかおをキャスターに起用した続編を期待したい。
クレソンおじさん