- 番組名:「真夜中のドキュメンタリー:「ママががんになった~子どもに伝えるとき~」「私が乳がんになったとき~ニュースキャスターと家族の闘病記」
- 放送局:中京テレビ
- 放送日時:2019年3月9日 (土曜)24時55分~25時50分
がんになった女性と家族を描く別の2本のドキュメンタリーを連続して放送した。この手の取材は長い時間、患者さんの日常を晒すことになるので非常にセンシティブにならざるを得ず、取材する方もされる方も、気を使ったり遠慮が働く。その壁を乗り越えてこそ、対象者のホンネが聞けるわけだ。第一部の番組では既に亡くなってしまった方も登場、家族の想いは複雑だったろうが、彼らのホンネを引き出すには取材者と対象の心からの信頼関係がないと出来ない技だ。その点、本作は長時間に及び家族の中に入り、がんという病気を取り巻く、特に対子どもとの関係を提示していた。視聴者を傍観者から当事者に近い存在に引きずり込むのがディレクターの手腕。感じたのは、子どもは意外と強い、ということ。そして母が思う以上のことをちゃんと考えているということ。(年齢にもよるだろうが)。もちろんそれには患者たる母の心構えがしっかりしていないといけないわけだが。
この番組は、編集の仕方もあったのだろうが、全体に不思議な明るさに包まれていた。全ての患者と子どもがこういくわけではないと思うが、心と心で会話できる関係を気づいたディレクターの対象者に対する心構えが、そうした明るさを生み出したともいえるのではないだろうか。700日の追跡取材が、この2つの家族のありように好影響を与えたような気もする。番組のスタンスとして良いことなのか、避けるべきことなのかは分からないが。軽々と扱えないテーマの中から一つだけ「お母さんががんになったら子どもにどう伝えるか」にフォーカスしたのも制作者の視点が分かりやすいものにしていた。
この手の番組に「もっと深みを」とか「掘り下げが浅い」ということは簡単だが、700日を追ったテープの数は膨大になっていたと思うし、エピソードも、削ぎに削いだ結果だと思う。編成的に30分番組に仕上げなければならないのは理解できるが。編成担当者と制作者は再度本番組を検討し、同じ取材・素材で言い切れなかったことを一時間番組のディレクターズカットに仕立てることに挑戦してみないか?
一方、自社の恩田アナの闘病記。恩田アナは自らの出産をバラエティ番組で取材させてり、その体当たりの姿勢は今に始まったことではない。本番組中の独白でも語っていたが、「他の患者さん、視聴者のみなさんの何かの参考になれば」というプロ根性は相変わらずだ。彼女にもがんのことを子どもに言わなくてはならない状況はあったが、お子さんはふたりとも大きいので、幼い子供ほどの動揺は取材上は出てこない。しかし既に父を亡くしている子供としては母に何かあったら・・・と苦悩したことは想像に難くないし、彼らのインタビューからはそれはうかがい知れるところだ。
私も最近近しい人が恩田さんと同じ状況になり、いろいろと勉強もしていたので興味深く見させてもらった。一点納得が行かなかったのは、手術室で手術を始める時に執刀医は「右乳房乳頭乳輪温存手術、およびセンチネルリンパ生検手術を行います」と宣言していたはずだ。だが、結果は「右乳房全摘」。その結果について、ステージが手術前には1と推察されてた(恐らく3Dマンモも穿刺組織生検も済んでいたはず)だが結果は2Bと進んでいて、大きさは2センチを超えていた。こうなると全摘も当然視野に入るわけだし、ましてやリンパへの転移が認められたのでリンパ郭清も同時に行われたはず。そうでなければあれだけ長い手術時間が掛かるとは思えない。その「温存」から「全摘」に至った経緯の説明は省かれていた。女性であれば全摘という結果は大ショックのはず。その辺りの事情と本人のリアクションを聞きたかった。番組の冒頭で「乳房再建」の話が少し挿入されていたが、その辺りもオミットされていた。3%の生存率を上げるため副作用が大きい抗がん剤をチョイスする面(これもとても大事な選択なのだが)をクローズアップしていたが、どこかモヤモヤとしたものを感じた。30分番組に押し込めるためカットされたのだろうか。
この「恩田さん」番組取材はポスプロ意外の現場は全員女性のチームが行った。まあ当然デリカシーやプライバシーの問題があるので当たり前ではあるが、女性故に恩田さんの悩みに対しての共有は出来ているはず。そこらあたりからのツッコミが欲しいところではあった。番組で一番印象的だったのは「患者が決めた治療法を否定しないで受け入れてほしいんだよね。そう決めたことに寄り添って欲しいんだよね」と涙ながらに恩田さんが語っていたところだった。恩田さんが体を張って取材に応じた(あるいは自ら提言したのかもしれない)覚悟を思う時、こちらももう少し底上げを図って1時間番組に再構成できないものだろうか。そこでは是非「乳房再建」の話題も入れて欲しい。地元で影響力のある人なのだから、彼女の意思をしっかりと受け止めた重厚さが求められる。(KING)