「未来郵便 10年後のあなたへ」(東海テレビ:バラエティ・ドキュメンタリー)

  • 番組名:「未来郵便 10年後のあなたへ」
  • 放送局:東海テレビ
  • 放送日時:2019年3月31日(日曜)午後1時45分~2時50分

東海テレビ開局60周年の(たぶん)フィナーレを飾る特番。10年前(2008年)に開催した同局の50周年記念イベント会場で「10年後のあなたや家族に宛てたメッセージ」を書いた葉書を写真付きで私設ポストに入れてもらった。10年後の去年、それを配達、それぞれの10年後をリポートした。4000通以上の葉書が集まったという。東海テレビらしい時間を掛けた息の長い企画だ。最初にばらしておくけど、60周年の去年も同様の企画を実施し、70周年の時に同様の番組を作るらしい。司会の寺田心君、10歳だが、その時にもこの世界にいたならきっと司会を担当するだろう。20歳だ。今から楽しみなことである。筆者はこの世にいるかどうかを心配しなければならないが。(苦笑)

さて、10年前に書かれた多数の葉書の中から選ばれたのは5組の人たち。4000通もあると、テレビのネタになるようなドラマチックな10年を歩んだ人たちはいるんだなあとゲスの勘ぐりをしてしまった。このウチ2組は病気がらみであった。あとは1年間休業して世界一周をした夫婦のトラブルなどの話題、そしてアイドルになりたいという夢を実現した少女、今はシンガーソングライターとして羽ばたこうと努力の日々を送る。さらに当時もやっていたバレーを今も続けている17歳の少女は、これから3年間イギリスにバレー留学し、技を磨いてくるという、これら3組を紹介した。

大きく取材時間を取ったのは最初に登場した青年ともう一組。最初に登場する青年は、10年前の葉書には「オールジャパンになってますか」と記した。現在、名門早稲田のラグビー部に所属、10年前当時にはすでにラグビーに熱心に打ち込み、小柄な体格を跳ね返し愛知県選抜に選ばれるまでになった。しかし好事魔多し。彼を難病が襲う。しかし、彼はラグビーと折り合いを付けつつ生活できる治療法に出会い、努力の結果、現在のポジションを得たのだった。また一人っ子を支える父母の溢れんばかりの愛情があった。母は毎年息子の誕生日に手紙を書き続けている。病気が親子の絆を深めた。10年前と同じく現在もオールジャパン入りを目指しラグビー漬けの日々を送っている。最後に東京で暮らす息子に母からビデオレターが届けられる。「健康で大きく生んであげられなくてゴメンね」と母。それに対して「こいう体だからこそ掴んだ事もある。責任なんか感じなくていいよ」と前向きな息子。見守る両親に決して甘えていないし、病気の自分を諦めない。彼の強い精神と親子の情の交流に心が温まる。青年がこの2月オーストリアへラグビーの修行に短期留学に飛び立つところでこの話題を締めた。きっと彼は難病に負けず、しっかりとした人生を歩むに違いないと確信出来たのだった。

もう一組は10年前「ウクレレはうまくなってますか」と書いた当時還暦を過ぎた女性の10年後。この手紙を書いた後、彼女の夫は脳溢血で倒れた。夫のリハビリが続き、その期間(2年間)はウクレレに触っていなかったという。彼女の献身的な看護と夫本人の努力の成果で、歩けるようにもなり、喋れるようにもなったが、今でも動きは緩慢である。彼女はその後ウクレレを再開、スクールにも通い始め、カラオケ好きの夫の歌にウクレレで伴奏を付けてリハビリと趣味の両面に活かしたりしている。そして子どもや孫たちが集まって彼女の誕生日のお祝い。妻のウクレレ伴奏で夫と家族が合唱する「見上げてごらん夜の星を」。10年間という時間が短いようで長いなあ、と感じる。2008年からの10年、筆者は馬齢を重ねるばかりであったことを恥じ入るのみだ。

この取材、よく見ると去年の春夏頃から始まっていることが取材対象者の服装などから分かる。ということは3月下旬の放送に対し、かなり長期の取材を継続していた、ということだろう(東海テレビの60周年は去年だった)。多数の中から候補を絞る作業は簡単ではなかったはずだ。「これだ」と思って連絡しても断られたケースもあっただろう。こうした作業の中から情報を深掘りして、長い時間を掛けて追跡した取材は短い放送時間ではあっても厚みを感じた。この企画、東海テレビの10年ごとの周年企画として制作され続けるだろう。それだけの価値がある企画である。HPや社長会見資料ではこの番組はバラエティとなっていたが、立派な人生ドキュメンタリーとしても成立しているのがしたたかであり見事である。(KING)