• 番組名：「城下に三つの福が舞う　郡上八幡春まつり」
• 放送局：CBCテレビ
• 放送日時：2019年5月25日（土）13:00～13:54

郡上八幡というところは、周囲の美しい山河に当り前のように溶け込んでいる素敵な街だ。美しい山河と言っても極端な大自然というわけでもないので、比較的近くにありながら長年、この街の魅力を忘れかけていた気がする。俳優の近藤正臣が移住してきた（番組内に本人登場）くらいだから住民の気立てもいたってハイクラスに違いない。

しかし、この街も今では過疎化が懸念されているようだ。そんな中、若者らの心に自然に芽生えた郷土愛は、神社の祭りへの参加意欲へと形を変えて昇華されてゆく。郡上のお祭りと言えば、素朴さだけが取り柄かと勘違いしていたが、実際はさにあらず。「完璧をめざしたい」と言う少年の熱いまなざしには、少なからず胸を打たれた。彼のひたむきな稽古がもたらした成長は、本番での「ささら」（獅子を操る子役）の演技に確かに表れていた。そして、注目すべきは、直線的な切れ味を有する獅子の舞、男性が実に柔らかく演じるおかめの舞、多少の哀愁を匂わせながら可笑しさを醸し出すひょっとこの舞だ。これらは、過度な飾りや演出を排除した印象を与え、ちょうど良い緊張感の中で見る者の心を浄めてくれる。

さて、この番組をなぜ今制作したかについては、企画者の方に聞いてみないと本当のところは不明だが、現代社会においてたおやかに生きるための貴重なヒントを示すことには成功している。上質な人生を手に入れるのに必要なもの（たとえば、友愛、情熱、礼節、品格など）が、大神楽を取り巻くエピソード中に自然な形で盛り込まれており、豊かな気持ちになれた。

敢えて言うならば、三つの神社の特徴がもう少し詳しく説明されていれば、知識欲旺盛な視聴者をも満足させられたのではないかと思う。

中島精隆