- 番組名:絶滅料理再現バラエティ ロストグルメ
- 放送局:CBCテレビj
- 放送日時:2019年10月13日(日)15時30分~16時54分(全国ネット放送)
歴史上の偉人が愛した幻の「ロストグルメ」の再現に一流シェフが挑む番組とHPにある。「ロストグルメ」とは昔は絶品の御馳走として歴史上の人物に食されたものの今の時代には残っていない、いわば絶滅料理の事を言う。
まずはパティシエ辻口博啓が11代将軍徳川家斉が愛した「白牛酪」という当時のスイーツを再現することに挑む。辻口さんはこの企画に燃えるとやる気を示す。そして追求しいていくと「白牛」は日本に2頭しか生息しておらず、しかも高齢で乳は出ない。インドにいる「白牛」のデータを取り寄せ、成分が似ている「ガンジー牛乳」にたどり着く。そして和三盆糖も用意して食材はそろう。
ここに至るまでで、いくつか気になる点を記す。
辻口さんがここまで企画にノリノリというのに驚く。企画趣旨に賛同したのだろうから、そのあたりをもう少し辻口さんに語ってもらったら、この番組企画の妥当性が高まったのではないだろうか?ともかくチャレンジしてもらうシェフにここまで言ってもらうことは大変ありがたいこと。
また、お題になった「白牛酪」は何故お題になったのだろう?家斉の功績はそれほど知らなかったが、天ぷらや寿司、うなぎの蒲焼など和食の定番がこの時代に確立してゆき、「江戸前」を生んだ将軍であったよう。調べる一環で食文化史研究家も出ていて話は興味深かったが、お題「白牛酪」を出すときにその説明があると理解しやすい。パネラーに「danchu」編集長が参加しているが、この方は喋りもいいし説得力もある方なので、お題提示役としても役割を担ってもらうのもいいと思う。ついでに言うが、辻口さん、笠原さん、茂出木さんと名だたる料理人がいるのに他の料理の時には出演していない。NHKの「あさイチ」に3人のシェフが出てくる企画があるが、和食のシェフが作っている時に中華やフレンチのシェフが言う一言は説得力がある。バラエティ人材が料理を語ってもどこまでリアリティがあるのだろう?その中で唯一スタジオの出演者で味の専門家は「danchu」編集長の植野さんだけ。料理や味のわかる人にもっと活躍してもらったらどうだろう。料理の価値や質に重きを置いている企画だとしたらだが。一本2698円もする値段の高い大分の「ガンジー牛乳」の事も植野さんは知っていた。さすが!
2つ目のお題「すきかかり」を担当した笠原さんもずいぶん時間をかけてこの番組に向き合った。この番組でびっくりするのはシェフのみなさんが時間をかけてこの企画に付き合っている事。笠原さんは食文化史研究家の自宅にも行っているし、滋賀県安土町にも行き、そして料理の再現に何日かかけている。制作スタッフに料理人と信頼関係がある人がいるのか、スケジュールとしてはかなりの拘束。こうしたスケジュールを頂ける事はスタッフの力。やはり適切に時間をかけた番組は制作側の熱が伝わる。働き改革の問題を抱えた制作チームには頭の痛いところだが。でもこの番組にはその熱があって、番組の出来に反映した。
少し、スタジオ部分の事を言う。
冒頭、スタジオに入ってくるのは顔を見てもすぐにはわからない「danchu」の編集長。どうかなあと思う。そして要淳は割と面白くいい味を出していた。小峠も基本ボヤキだが面白い。そして気になるのが料理人を一人立たせている事。レストランという設定なのだが、こんなに苦労を重ねて料理を再現してくれた料理人にもう一つリスペクトがないように感じる。この番組の立役者は3人の料理人なので、そこに敬意を払う見せ方を考えてもらいたい。
台風被害で日本中が騒がしい日曜の午後だったので視聴率環境としてはどうだったかわからないが、番組は面白く力作であった。
とここまで書いて、7月末に深夜放送として「白牛酪」を辻口さんが再現に挑んだ内容の「ロストグルメ」30分番組があったことに気が付いた。パイロット版的に深夜で放送し、今回の日曜午後枠につなげた訳だ。編成としては大切な全国ネットの日曜午後枠の精度を高めたという事か、良いトライだと思う。
柴垣邦夫