- 番組名:「家族記念日 写真がつなぐ12年」
- 放送局: CBCテレビ
- 放送日時:2021年3月29日月曜日 午前1時25分~午前2時50分
2009年のテレビドキュメンタリー界に旋風を巻き起こし、連盟賞テレビエンタメ部門最優秀賞を始めギャラクシー賞、「地方の時代」映像祭などで賞を獲りまくった、下野ディレクターの出世作「家族記念日」から早や12年。続編が出来た、というので、2009年当時は現場で受賞を喜んだ者として、楽しみに「録画して」観た。
先行して感想を投稿された柴垣氏のコメントにもあるように、日曜の「ど深夜」(未明)の放送は、視聴者にリアルタイムで見て欲しいという姿勢を放棄している。何かのコンテストに出品するために3月中に放送しておかなくてはならない、というアリバイ作りなのだろうが、局が胸を張って制作したのならせめて週末の昼間に放送するとか、工夫は出来ないものだろうか。こうした放送枠は今に始まったことではないが、自分もかつて現場で編成に関わっていたものとして過去の同罪を反省しながら、現役の皆さんに是非改善をお願いしたい。このドキュメンタリーがあってこそ、映画「浅田家!」が出来たと確信しているからだ。今や視聴率はタイムシフトも計測出来て、総合視聴率が出る時代でもあり、更に24時以降は視聴率が意味を持たない時間帯であるから編成も気楽、という面も理解はする。だが、局の矜持として、「自局の良心」は、もっと堂々とした場所で発表してもらいたいと願うのだ。(ファミリーコアの呪縛から抜け出ることはもう出来なくなっているのだろうか)
前置きが長くなった。今回の続編には12年という時間の経過がたっぷりと詰め込まれ、見応えがあった。(欠点もあったがそれは後述する)浅田さんも結婚し家族が増え、一方、父親は脳出血・車イス生活となった。さらに、写真家としての浅田さんに大きな影響をもたらした「東日本大震災」の被災写真の洗浄作業も体験した。加えてこのコロナ禍である。写真の持つ「チカラ」が風景光景を捉えたただの一枚の紙、でないことが良く分かる。12年前の作品では、浅田家の「真剣にふざけたコスプレ写真」の事から、全国を無料で飛び回りリクエストに答えてコスプレ写真をプロデュースし、撮影する様が活き活きと、かつ情感たっぷりに伝え、コスプレ写真の裏側にある人生ドラマを切り出して見せた。たかが写真、されど写真という感動をもたらしたのだった。
今回の続編ではその感動を更に上書きし、加えて浅田家の経年変化とコロナ禍という異常事態に対応した浅田さんの新たな「写真」に対する姿勢を描き出した。印象的だったのは身体の自由が利かなくなった父親の遺影写真集を作ったこと、またコロナ禍でおウチ時間が増えたことで、浅田さん自身親子3人でコスプレ写真を撮り、インスタにアップしたことだった。SNSは12年前には無かった表現手段。これでまた一層浅田ファンが増えたことだろうし、自分もやってみようと思った人も多いのではないか。
しかし一方で12年の浅田家と社会の変化は、90分番組にしても詰め込みきれないほどのボリュームを持つ。番組の前半では12年前の作品を、また浅田政志という写真家を知らない人に向けて一作目からのアーカイブを多用しての説明となった。その後、浅田さんや浅田家に起きた変化の12年分のエピソードを重ねていった。時間の経過が多量すぎて(12年前に取り上げた親子の後日談もあったし)、時制があちこちして混乱したのと(いちいち時間は字幕で表示されてはいたが)、しかも浅田さん自身が東京に事務所を持ったり、また撤去したりロケ場所があちらこちら登場するなど場所もいろいろ移動するので、全体として有機的なまとまりが今ひとつだったのではと感じた。そこは残念だった。そこで3度観てみた。柴垣氏も指摘していたように、冒頭に「いーちゃん」こと西さん一家を取り上げたのが混乱の始まりだったようだ。西さん一家は浅田さんにコスプレ写真を撮ってもらった家族。その背景説明が省かれているので、恐らく、この番組だけを観た人は、浅田家と西家がごちゃごちゃになったのではないか。父親が同じような健康状態というのも含めて。石井亮次アナのパートは浅田政志本人と浅田家にかかわるシーンを、渡辺美香アナは浅田さんの被写対象となった人々、という風にナレーションを使い分けたが、一見では分からない。もう少し時系列や本人絡みと被写体絡みのプロットを整理したら随分見やすくなり、感動も倍加したのではないか。(字幕の付与が無かったが、どうしたんだろう)
また嵐の二宮和也が浅田政志を演じヒットした上に多くの賞も獲った映画「浅田家!」については何のコミットも無かったのが不思議だった。HPには書いてあったのに。何か大人の事情でもあったのだろうか。勿体ないエピソードであった。が一方で90分にまとめようとすると本筋とは切り離したいと思ったのかもしれない。
とはいえ、全体に時間経過のボリュームが持つ感動は否定し難く胸に迫った。浅田さんの撮影した老演歌歌手を務めた、いーちゃんこと西さんは葬儀の遺影にその写真を使うほど、今年になって亡くなった、いーちゃんの奥様も「宝物」と語るほど、浅田さんの撮影した一枚の写真のもたらしたものの感動は一作目を上回って大きかった。(KING)