「トガリビト 第2回」(CBCテレビ・教養)

  • 番組名:「トガリビト 熱量に、触れる 第2回」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2024年9月7日土曜日 午後5時~30分

6月に当番組の初回を見て、その映像構成を中心に出来の良さをここに書いた。その時、レギュラーになればいいのに、とも記したが、第2回が先日放送された。不定期放送な感じか。JR東海一社提供で毎週というもの営業的にもネタ的にも大変なのかもしれない。番組冒頭でも繰り返されるように「直接会いに行く」というキーワードがJR東海の最近のキャンペーンに合致していることから、新幹線を使って取材対象に会いに行くというスポンサーの方針がネタ探しを相当程度縛る状況もあるともみえる。

さて、初回の画作りのスタイリッシュな点を中心に大いに評価させていただいた。しかも局制ではなく局プロダクションの制作で、彼らの感性の「トガリビト」具合に感心したのだった。2回目となると、フォーマットの目新しさは無くなり、更に洗練された構成とインタビュアー(演出側)の力量がものをいうことになる。観る方も、番組の訴求ポイントそのものに迫る観方をするようになる。結論から言えば、今回もターゲットとした人物のユニークさ、またインタビュアーの質問の的確さ(演出サイドの丁寧さ)が、30分の物語を面白く興味深いものに仕立てあげ、今回も観ごたえがあった。グルメの挿入(今回は浜松なのでウナギ)も、流れを阻害しないよう上手く入れ込まれ、先回より改善・洗練されていた。

今回の「トガリビト」(”とある界隈で「とがって」成功した人”=HPより)は、浜松の新興ピアノメーカー「遠州楽器制作(製作ではない)株式会社代表取締役CEO 岩佐真(51)」氏だ。ピアノのブランド名は「ENSCHU」。岩佐氏はアメリカ人の父の養子として独特の環境で、だが恵まれて育ち、洋服メーカー、そして浜松の大手楽器メーカーに就職した。楽器に興味はなく、彼が日英中の3ヶ国語を話せることが買われたのだという。筆者はこのメーカー、寡聞にして知らなかった。最近クラシックピアノ界で話題のイタリアの新興ピアノメーカー「FAZIOLI」(ファツィオリ)を想起したが目指す方向性が全く違っている。

しかし、岩佐さんは楽器を世界を飛び回ってセールスするうちに、「世界には一生楽器に触れてないで終わる子どももいる。そうした子どもに楽器を届けたい」と夢を持つようになった。日本より海外で売ろうとしたのだ。かつての楽器制作会社の中間(知り合いであったわけではない)のピアノボディの組み立て制作者=工場長、内部と調整担当、調律担当の4人で2019年に、自分のピアノ会社を立ち上げた。誰が聞いても「なぜ今?無謀だろう」となるのは当然だろう。日本のピアノ市場は子どもの減少の中、ほぼ大手独占の市場となり、そこも先細りの心配がある現場なのに、だ。さらに立ち上げ翌年からの「コロナ禍」。外国での販売を目指しながら外国へ営業に行けない状況が続く。先回の豊橋の前掛け屋さんもそうだったように、直近で立ち上げた会社はみなコロナ禍の試練を受けている。しかし「トガリビト」は逆境をチャンスに変えていく知恵とパワー、負けん気がある。

「エンシュウ」ピアノは日本の家の事情に合わせグランドでも奥行きを短くし、音を柔らかく整えた。更に完全受注生産で、価格を押さえた。グランドで約140万、アップライトが80万円だ。部品をCADで設計し、部品メーカーに発注し、自社工場で組み立てる。宣伝はしない。PRの手段はストリートピアノ(駅ピアノなど)でピアノYouTuberに弾いてもらい(依頼するのではない)発信する作戦を取った。これがバズって名が知られるようになっていく。

海外の売り上げた9割を占め、次はアフリカを狙うという。10台売ったら1台は孤児院などに寄付をするのだそうだ。更に「メイドイン浜松」のピアノを今構想中で、普通使わない天竜杉で駆体を、その他の部品もすべて浜松で制作したピアノを作るのだという。

今回も「トガリビト」を観て思うことは、その人の夢の強さ、それを達成させる根性、めげない気質、人を引き寄せるキャラクター、そして先を読むチカラ。4人で新しいピアノメーカーを立ち上げるなんて普通は思わない。それをやってしまうのが「トガリビト」の「トガリビト」たる所以だ。30分の番組から主人公の生き様のポイントを感じさせてくれる番組はストーリーテリングのインパクト、構成、演出として成功しているといえるのだろう。次回がまたまた楽しみになった。(KING)