チャレンジは素敵だ。CTV「車いすの花嫁~理解されない病との闘い~」

放送日時:2024.9.23(月)0:55~1:51
放送局:中京テレビ
番組名:NNNドキュメント’24「車いすの花嫁~理解されない病との闘い~」

重いテーマのドキュメントを視るときは、こちらの気持ちを整えてから真摯な態度で向き合うよう努めている。そんなわけで今回は、録画データを1週間も温めてしまった。番組タイトルから予想したのは、出口の見えない闘病生活に悶々とする取材対象者が、周囲の支援により結婚にこぎつけるという展開…。そこには悲壮感が伴う気がしたので、自分も沈み込んでしまうことを恐れた。しかし、実際に視聴してみると決してそんなことはなく、むしろ登場人物全員から元気をもらえたようで嬉しかった。

岐阜県可児市出身の塚本明里さんは「筋痛症脳脊髄炎/慢性疲労症候群」という珍しい病気だ。症状は体中のひどい痛みとだるさ。30分しか立っていられず、普段は横になって過ごす。治療は全身40か所に及ぶ痛み止め注射(週6日)と飲み薬。高2で発病以来、18年間続いている。この病気は、見た目ではわかりにくい為、周囲から詐病扱いされることもあるとか。かつては、医学界でも誤って精神疾患に分類されていたらしい。治療費負担は大きく、彼女の場合、大学進学にも影響が出た。しかし、何かに挑戦したいと19歳のとき、地元雑誌のモデルに応募。これを機に柳ヶ瀬商店街の広報役として人前に出るようになり、発信の喜びを知る。頑張る姿がスタッフから愛された。ラジオでは、横になったまま明るいトークを繰り広げる映像が印象的だ。また彼女は、この病気への誤解や偏見をなくしたいと同じ悩みを持つ患者会の代表としてイベント等も開催する。

そんな中、新たに見つかったもうひとつの病気が「脳脊髄液減少症」。髄液の漏れが、頭痛やだるさを引き起こす要因かもしれず、自身の血液を患部に注射するという治療で改善の可能性があるそうだ。一筋の光…。また、主治医の尽力の甲斐あって身体障碍者手帳も取得できた。これにより、医療費の助成が受けられる。「大事なのは理解してくれる医者に巡り合うこと。(珍しい病気の場合)大勢の医師が情報共有するのは難しいから」と医療ジャーナリストは言う。厚労省によれば、明里さんの病気は客観的診断基準がないこと等で難病指定ができないらしい。

食事や病院の送迎で明里さんを支えてきたのは、母・弥生さんだ。「闘病というだけの人生はかわいそう。できることを精一杯やらせたい。」そんな後押しもあり、明里さんは27歳のとき、なんとミス・ユニバース・ジャパン岐阜大会にも出場。容姿の美しさに加え「バリアフリーの社会を」というメッセージが審査員に響き、WEB賞を受賞した。

そして昨年、明里さんは最愛の伴侶、駒場琢也さんと出会う。結婚を決めた理由を彼に尋ねると「人間的魅力に溢れ過ぎていて、好きにならない方がおかしい」と断言。きっかけは婚活アプリだという逸話も明里さんのチャレンジ精神を証明してみせた。やはり、前に進もうとする熱意が運と人々の愛を引き寄せるに違いない。

番組では、明里さんの苦しい闘病暮らしの実態と彼女が行動を起こすときの明るい表情が交互に紹介されていたが、後者に大きな力があった故、健常者をも勇気づける爽やかな作品に仕上がったのだと思う。密着したスタッフに敬意を表したい。

中島精隆