生かされる喜び。 CTV「バヤルタイ モンゴル抑留72年越しのさようなら」

    番組名   :「バヤルタイ モンゴル抑留72年越しのさようなら」
    放送局   : 中京テレビ
    放送日時 : 2019年9月7日(土)25:05~

第二次大戦直後のモンゴル抑留という重い史実を柱としているが、希望を感じさせる人間ドラマが描かれており、清々しい気持ちになれた。このようなドキュメンタリーに仕上がった要因は、両足を失いながらも周囲を恨むことに囚われない友弘正雄氏(94)の強さと、モンゴル女性記者ホンゴルズル氏(38)が両国を公平かつ好意的に見る姿勢だと思う。ふたりが出会って2年後、一緒にモンゴルに行くことが実現したのも互いによどみなき信頼関係が芽生えたからであろう。

「終活としてきちんとしておきたい」と戦友慰霊の最後の旅に出る友弘氏にホンゴルズル氏は随行する。ウランバートルには、モンゴル人すらほとんど知らないというという抑留日本兵の功績があった。彼らの過酷な労働により建設された主要施設は、市役所、国立大学ほか30以上。
当時、敵対していた日本人の活躍は、モンゴル社会主義にとってタブーだったらしく、民主化後も学校でこの事実を教えていない。社会主義国として近代化を急いだモンゴルが、都市整備のための労働力をソ連(相互援助条約国)に要請した経緯がある。結果、シベリア等抑留者60万人の内、1万2千人がモンゴルへ連行されたわけだ。

極寒の中、凍傷にかかり現地の病院で両足切断を余儀なくされた友弘氏は、自分の世話をしてくれながらも先に逝った戦友を忘れることができない。誰かの犠牲のもとに人は生かされているという思いが、その後の彼の人生に影響を与えている。

友弘氏は、70歳を超えてから孤児院の運営に尽力した(設立の年から計算するとそうなる)。政治不安の最中で家を失ったモンゴルの子供たちを救うためだ。暮らしに必要な教育をまるで親のように施してくれたと、再会時、立派な大人に成長した教え子が喉をつまらせて訴える。

大きな敵に対しても相手の立場を理解することに努め、献身的に自分に接してくれた人に対しては、感謝と尊敬の念を忘れない。長年にわたり色々な思いが交錯した末に得ることのできた笑みが、友弘氏の顔には輝いている。

バヤルタイ(幸せと共にまた、貴方と会いたい)…。学びの多い番組であった。

中島精隆