真夜中のドキュメンタリー「息子の終活」知的障がい者の親として、何を遺すか?

  • 番組名:息子の就活 知的障がい者の親として、何を遺すか?
  • 放送局:中京テレビ
  • 放送日時:2020年3月7日(土)24時55分~25時55分
5年前にNNNドキュメンタリー枠で放送した「息子の就活、取材します!」の続編。ディレクターの息子が重度の知的障がいで自閉症。そろそろ養護学校を卒業するというタイミングで自立する場を父親であるディレクターと息子で探し回る中で障害者支援の現状を取材していったもの。子育てに疎かった父親であるディレクターが一人空回りする様子などコミカルな要素もあり、息子さんの様子も息子ならではの近さでリアルに描かれ、ユニークな作品だったと記憶している。
そこで今回の番組。数年前に名古屋であった息子さんの顔なじみの25歳の青年が将来を悲観した父親に殺されるという事件が起きたことが続編のきっかけ。亡くなった青年も重度の知的障がいがあり自閉症。しかも「強度行動障害」という症状もあり、養護できる施設は見つからずしばらくは自宅で養護していたが、ついに父親は青年を殺した。この事件は同じ障害を持つ子供を持つ者に大きな衝撃を与えた。「明日は我が身」。自分たち親が死んだあと息子はどうやって生きていけばいいのか?ディレクターは還暦を迎えるという年齢もあり、息子が自立していくための「終活」が必要で、その実態を探っていった。
なかなか見通しが持てない将来展望、それを克服するにはいろいろ調べるしかない。いろいろな特徴を持つ障害者支援施設はあるが強度行動障害のある障害者を受け入れる施設はなかなかない。
ディレクターである田中穂積記者が自ら顔を出し、重度の知的障害で自閉症の息子さんを撮影対象として取材、が故に関係の方々を顔出しで入り込んだ取材は大変評価する。彼らの日常を目の当たりにすると申し訳ないが僕は途方に暮れる。そうした実態をしっかり見せてくれた。子供への支援は親として当たり前だろうという漠然とした思い込みはとんでもない誤解だ。体力がいり根気がいりとても継続することは簡単ではない。親御さんには頭が下がる。
ついにたどり着いた形は24時間体制の訪問看護。東京の現場に取材は入る。支援を受ける障害者には良い環境だが、多くの人がこの支援をうけることは、支援体制が相当充実しない限り難しいだろう。
番組作りについて語らせてもらう。
番組はもっと良くなる余地があると思った。多くの状況説明が必要で整理をもっとすると良い。
この企画のホネである父親であり取材者であるが故に父親の視点とジャーナリストの視点が混在し、問題点が分かりづらい。ここがホネだからうまく交通整理をする必要がある。
・タイトルの「息子の終活」とあるが「息子の就活、父親の終活」なのでは。「息子の終活」と理解するには説明がかなりいる。
・田中君のテロップでの紹介は中京テレビ報道部とあるが、まずは父親とし名前の下に中京テレビ報道部とカッコ付きで出すと良い。
・数年前の事件の追っかけ取材は中途半端で終わってしまった。
第三者の視点も入れて構成を考えたらかなりいいものになると思う。田中君でしか撮れない撮れ高はあるので、この素材で再挑戦してみたらどうだろうか?
父親の感情も出てしまうので、なかなか客観的に構成を考えるのは難しいだろう。でも、懸命に作品にしていこうという田中穂積さんの気迫は十分伝わった。敬意を表したい。
柴垣邦夫