「キャスターが聖火ランナーとなる違和感」(CBCテレビ・報道)

  • 番組名:「チャント!」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2021年4月5日、6日

愛する放送局だから敢えて苦言を呈したい。東京2020五輪の聖火が現在日本各地を回っている。5日と6日は愛知県内を巡った。5日の「チャント!」を観ていて驚いた。この春から番組アンカーマンとなった大石アナウンサーが聖火ランナーを努めたというのだ。場所は清須市内。

なぜ驚いたのか。報道キャスターは基本的にイベントのプレイヤーになるべきではないと信じているからだ。コロナ禍で聖火を見に来る人たちが密になる、というのはもちろんだが、私も基本的には大好きな五輪も、最近の商業主義やカネがかかりすぎる規模に、いささか辟易としているのも確かだし、それ故に正面切って反対している人々もいる。こうしたいわば「国論を二分する」(今でも東京五輪は延期するか中止したほうが良いという調査が多い)イベントに、報道キャスターが無邪気に出てくるのは如何なものか。ドラゴンズキャンプに参加するのとは訳が違う。

確かに、福島ではNHKのアナウンサーがランナーになった。これは福島だから、というカッコが付く。それであっても私はアナウンサーの登場に首肯できない。局の看板番組を背負っているキャスター(アンカーマン)は、コロナ禍という側面も含め、いろいろある東京2020を冷静かつ客観的に見つめていて欲しいのだ。

特に東京2020五輪は、エンブレム問題や新国立競技場、マラソンの札幌開催、会場問題、先般の森発言、そしてコロナ禍による延期と外国人観戦客の入国不可と、様々な問題を内包した大会である。そうした大会であればこそ、報道キャスターは、イベントに一定の距離を置き、冷静かつ是々非々で論評して欲しいと思うのだ。

それでもオリンピックは多くの国民やアスリートも待望している一大イベントであることは間違いないので、その祝祭の気分を潰すことはないとは思う。が、現況を踏まえた時、あまりにも無邪気にはしゃぐのはどうだろうか。結果、筆者の記憶が正しければ、5日、6日の「チャント!」内では、沿道の「密」の話は出ていなかったと思う。大石キャスターが走った沿道を見れば明らかに「密」状態であり、それがあっては「密」をニュースにしづらいのは当然だろう。(ネットニュースではTBSの論評としてコメントされていた。5日は丸川五輪相も、苦言を呈していたくらいだった)

7月末までまだこの五輪は紆余曲折が予想される。北朝鮮の不参加表明、アメリカが北京五輪のボイコットに言及したことから東京2020への影響も懸念される。日本ではワクチン接種が思うように進んでいない。楽天の三木谷社長が「一生懸命生きているのはアスリートだけではない」と、ついに東京五輪開催に反対の声を上げた。

かつての五輪のように、三波春夫が東京五輪音頭を歌った祝祭の雰囲気で開かれるものでは無くなってしまい、むしろ国際問題や人種ジェンダーとった社会問題を内包したイベントとなってしまっている。だからこそ、ニュースキャスターには冷静に対応してほしいのだ。恐らく大石アンカーは自分が走りたいと言い出しのではないかもしれない。するとCBCの報道機関としての姿勢が問われていると思うのだ。CBCも大好き、大石アナウンサーも大好きだからこそ、今回の出来事は個人的に大変ショックだった。筑紫哲也さんが聖火を持って走っている姿を想像できますか(KING)