誠実な作り。CBCドキュ「やったぜ!じいちゃん」

放送局:CBCテレビ
放送日時:2022.5.23(月)1:20~
番組名:伝える’22「やったぜ!じいちゃん」

学び多き番組であった。取材対象者の舟橋一男さんは、重い障害を持ちながらも印刷の仕事を続け、現在74歳。そして、彼を愛した母と妻が素晴らしい。

母の雪子さんは、20歳までしか生きられないだろうと言われた一男さんを逞しく育てた。50年前のドキュメンタリー映像を拝見すると、美しく優しそうでありながら芯の強さがうかがえる。彼を幼少の頃から積極的に人前に連れ出し、紹介していたとのこと。

妻の瑞枝さんは、正に「運命の人」。一男さんと出会って間もなく、健常者には聴き分けにくい彼の言葉をほとんど理解できたらしい。また、表情はいつも明るい。こうして長年、自然体で彼を支えてきた。

娘たちや孫も一男さんに敬意を抱き、日頃から朗らかに接しているようだ。

前述のドキュメンタリーでは、若い頃の彼が障害者の友人らと北陸を旅する様子が伝えられていたが、自分の姿を目の当たりにするのに抵抗を感じ、放送後は二度と視聴することがなかったという。しかし、今回の番組作りを機に家族とともに改めてこれを視聴できたことは本当に良かったと思う。画面の中の彼の不自由な動きにも屈託のない笑いがリビングに湧き起こる。彼を誇りに思うがゆえに生まれたこの空気…確かな絆だ。

番組の編集は、全体に淡々としたリズムだったので事実をありのままに描こうとする制作姿勢も伝わった。きっとこれで良い。

前回のドキュメンタリーから数えて50周年。だから撮影してほしいという家族の手紙が、今回のスタッフを動かしたそうだ。過剰演出なしの誠実な作りで信頼に応えられたのではなかろうか。

中島精隆