「神の岩、花の祈り お綱掛け神事・花の窟神社」(CBCテレビ・ドキュメンタリー)

  • 番組名:「神の岩、花の祈り お綱掛け神事・花の窟神社」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2022年10月29日(土曜日)午後2時~午後2時54分(番販ネット)

毎年恒例ダイドー提供の日本の祭り特番がやってきた。今年はコロナ禍により2年連続で開催が中止された三重県熊野市の花の窟(いわや)神社の「お綱掛け神事」を取り上げた。制作も延期になっていた祭りで、制作陣も力が入ったことだろう。

CBCテレビではこの番組はこのところ制作プロダクション、中日本制作所の坂田監督の手で仕上げられている。自然を取り上げさせると定評がある会社の番組だけに、これまでのどの祭りでも土着風俗や自然を丁寧に拾い、細やかな映像表現と、取材対象者との深い交流から生まれる信頼感を画面から感じさせ、見応えのある作品に仕上げてきた。

今年の作品も、圧倒的な熊野灘のドローン映像や七里御浜の風景を始め、御神体が「巨岩」という独特の神社に伝わるユニークな「お綱掛け神事」(花の窟神社秋の例大祭)の様子を自然のありさまと人間から迫った。

ダイドーが長年追い続けている日本の祭りはどの祭りもその地方の民俗・風俗を反映し、ユニークなものが多くそれが見応えともなるのだが、熊野市に伝わるこの神事は割りと「地味」。激しい神輿も心に残る祭ばやしも踊りも無い。さて、坂田監督どのようにこの祭りを料理するのか、俄然興味が湧いた。

番組は「花の窟神社」の名前の由来と祭神のおさらい、大祭が2月と10月に行われることから、五穀豊穣を祈って縄をかけたのではないかという祭りの経緯(いきさつ)を資料を使って説明するところから始まっていく。そして時系列に沿って祭りの決定とコロナの折り合い、開催の決定、綱を作る稲の刈り取りと続く。ここでチェンジオブペース、巨岩信仰の歴史を解説する。さらに流れを変えて人間にスポットを当てていく。祭りを取り仕切る責任総代、地元で黒毛和牛を飼育し、神様のお陰を深く信じる男性、祭りで岩に登り「お綱」を掛ける「上り子」と呼ばれる若手氏子の紹介。彼の祭りの存続に掛ける想い、本番では参拝者も海岸で綱を引く、その七里御浜で取れる白い石と産田神社と「上り子」との関わり・・・とリズムよく進み、そして祭り前日へ。

綱をなう準備とそして祭り本番。先に紹介した人々がそれぞれの立場で祭りに関わっていく様子を一つ一つのアクションに拘って丁寧に追っていく。派手さがない分、否応なく「人」と「綱」、「花」が浮かび上がってくる。祭りそのものもどちらかといえば粛々と続いていく。岩の上からの七里御浜の光景は、ここからでないと見られず、もう少し長く観たかったところだ。

これまでもこのシリーズでは祭りと人、祭られる神々と、それらを囲む日本の美しい自然を描いてきたが、常に祭りが発する「高揚感」みたいなものが前に出ていたと感じている。昨年コロナ禍で描かれた新城市の火おんどりも、どこか静かな激しさのようなものを感じさせた。しかし本作は、ひたすら落ち着いたトーンの中で自然と神々と共に暮らす人々を祭りの中に描いた。取り上げるエピソードや取り上げる人が多い割に破綻しないのは、落ち着いたトーンで統一された演出と豊かな自然(御神体の巨岩も含め)の(映像の)賜だったのではないか。「花の窟神社」の「お綱掛け神事」だからこそ描けた世界なのだろう。それを上手く掬い取った演出陣の上手さが光った。こういう落ち着いた番組をテレビの大画面でゆっくりと見る、ネットではなかなか体験し難い、テレビの持つ良さの1つだと感じたのだった。(KING)