うまい組み立て。THK「江戸からきたキラくん」

放送日時:2024年1月2日(火)14:00~
放送局:THK
番組名:「江戸からきたキラくん」~開局65周年記念ドラマ~

ドラマの舞台は愛知・西尾市の吉良町(市政70周年)。吉良上野介の生涯に照らして物語をうまく組み立ててあった。
(周知の通り、吉良公は地元では治水工事の功績などが称えられ人気が高い。忠臣蔵におけるイメージとは異なる)

まず、このドラマはテーマがしっかりしており脚本がよく練りこまれていた。具体的には、30歳前後のキャストを通して転職時におけるアイデンティティ・クライシスの問題をコミカルながら誠実に描き、解決の糸口を紹介している。

事例は共演する二人の男女。男性(佐野岳)は好きなことを仕事にしようと俳優をめざしたが長年芽が出ず、とうとう自分の才能に見切りをつけてしまった。この絶望にどう対処したらよいのかがわからない。女性(岡本あずさ)はかつて医師をめざすも学力不足で断念し、合格圏内の大学に進んだ後、外資系キャリアウーマンとなった。だが、ハードワークのストレスに耐えられず、心が壊れてしまった。

「たとえ失敗してもそれまでの経験は無駄ではなく、次の小さな目標をひとつずつクリアしていくことで人は幸せになれるものだ」と劇中の医師・義久(天野ひろゆき)は言う。「人間、自分が何者でもなかったと気づいてからが勝負」と強調。

こうして男女は、吉良公を慕う町民や旧友との関わりを経てこれまでのこだわりから解放されていく。そして、ありのままの自分で新しい仕事に就く。前向きな選択だ。番組冒頭のナレーションにあったアインシュタインの「人間は奇跡を信じるか信じないかの2通りだ」という言葉が効いてくる。人は、何かのきっかけで自分を変えることができるようだ。

このドラマには派手さはないが、現代的なテーマ設定、娯楽性・地域情報性への配慮、言葉の選択、いずれにおいても丁寧な仕事がしてある。ローカル制作のドラマとして、きちんと役割を果たしたのではないか。

中島精隆