- 番組名:在名各局’26年1月~3月の単発番組(ドキュメンタリー・教養編)
- 放送局:在名各局、NHK(AK)
- 放送日時:不定
先日のバラエティ・ドラマ編に続いて「ドキュメンタリー・教養」部門についても書いておきたい。世の中が騒然とする中で、この手の番組がますます重要になると思ったし、地上波の役割は決して小さくはないとも感じた。NHKを含むが、勝負の土俵は異るものの、何を相手に番組を作っているかは示唆に富んでいる。
以下に録画視聴した番組である。①「幻のらせん~未解決事件の26年~」(中京・1月24日・午後1時30分・60分・ローカル)②「無限の檻~袴田巌さんと再審~」(SBS=CBC・1月25日・午後3時30分・54分・ローカル=日本民間放送連盟賞グランプリ受賞作品)③「令和の災害 南海トラフ地震を生き抜く」(東海・3月8日・午後4時30分・55分・ローカル)④「映像の世紀バタフライエフェクト 将軍ルメイ 悪魔と呼ばれた男」(NHK・3月9日午後10時・45分・AK制作)⑤「忘却の兵士 横井庄一」(CBC・3月16日・午前1時28分・1時間53分・ローカル)⑥「NHKスペシャル臨界世界 危険と表裏1万キロ・中国ドライバーロシアへ・人生かけた旅」(NHK=テムジン・3月29日・50分・AK制作)⑦「メ~テレドキュメント 風はどこから~進む軍産回帰~」(メ~テレ・3月23日・午前1時15分・65分・ローカル)⑧「テレメンタリー2026 これは過失か~”ながら運転”1歳児死亡事故~」(メ~テレ=ABC・3月24日・午前2時・ローカル)⑨「LEGEND~よみがえる三重の偉人列伝~#7本田忠勝」(三重テレビ・3月28日・午前0時50分・60分・ローカル)⑩「恋と戦争」<再>(東海・3月29日・午前2時57分・70分)⑪「あなたの志望動機なんですか?」(中京・3月29日・午後0時35分・55分・ローカル)⑫「F××kin’ Music よりそわない歌」(CBC・3月30日・午前1時10分・60分・ローカル)⑬「映像の世紀バタフライエフェクト 昭和天皇前編 立憲君主から現人神へ」(NHK=NHKエンタープライズ,PlanD・3月30日・午後10時・45分・AK制作)⑭「映像の世紀バタフライエフェクト 昭和天皇後編 現人神から象徴へ」(NHK=NHKエンタープライズ、PlanD・4月6日・午後10時・45分・AK制作)
以上14本。いずれもとても良く出来た力作揃いで充実した視聴時間を過ごすことが出来た。まず中京テレビ「幻のらせん」とSBSの連盟賞グランプリ受賞作「無限の檻」は、長い時間をかけて取材し、司法制度の欠陥を指摘していて見事だった。中京はDNA鑑定を、SBS静岡放送は再審制度の検察による抗告の是非を問うた。特に再審制度については現在政府法務省の検討案について自民党の法務部会で検察の抗告禁止を巡り大揉めしているので実にタイムリーである。名古屋の高羽さんは26年、静岡の袴田さんは58年というごく普通に生きている人には想像も出来ないような時間を必要とする法制度とは何なのか。以前観た司法解剖を巡る番組で指摘された法律の不備や行政の不作為と同様、日本の法制度全般について、一体検察と裁判は誰のためにあるのか、を二つの番組は考えさせてくれた。
CBC「忘却の兵士 横井庄一」は、2時間になんなんとする長編。映画にするのかしら、と感じたが、これまでの総集編とでもいうべきものである。しかしであった。時系列をたどりながら横井さんの発見から帰還、入院、カルテから観るグァム島の生活、帰国後の生活や周囲の反応を綴って行く中で、ラストに近づくにつれて非戦反戦と感じられる色が濃くなっていくような気がした。そもそも帰国直後の記者会見で横井さんは「兵器が無かった」と語っている。旧日本軍の兵站を無視した精神論に、最前線に取り残された一兵卒の悲鳴とも聞こえた。番組最終盤は戦争の愚かしさ、虚しさ、結局苦しむのは「戦陣訓」に縛られた兵隊と一般国民であることの指摘がじわじわと感じられたのだ。筆者にとっては得心が行く終わり方だった。羽佐間道夫が横井さんになって語っていた点、山根基世の落ち着いた語りも心に沁みた。こうした構成により見慣れた映像でも新鮮に感じて2時間を観きった動機に繋がったのだろうと思う。
東海「恋と戦争」<再>。初出は昨年の12月。中島さんが感想を書いておられる。土方Pが東海テレビの強みを次世代に繋ごうとして若手女性Dに任せたドキュメントであったと推測する。電通出身の金城学院大学准教授(戦争を知らない世代)がゼミ生を指導しながら、もっと若者に戦争について、また先の東日本大震災について考えてもらうにはどうしたらよいかのプロジェクトを仕上げる。そして彼女らがプロジェクトを完成させるまでの過程を描いていく。指導教官はゼミ生の主体性を尊重し、戦争を考えるアプローチは彼女らに任せた。すると彼女らが考えたのは「恋バナと戦争」。当時の20歳前後の女性をAIに仕立てさせ、彼女と会話してみようというものだ。戦争を体験した人たちに当時の恋愛事情を聞き出してAIに学習させ自分たちと会話してみようという試みだ。実に現代っ子の女子大生らしい発想だ。取材しデータを集めるのは当時20歳前後、現在100歳近い人たち。果たして。
何人かのおばあちゃんたちにインタビューを試みるが、彼女らの返事は一様に「それどころじゃなかったよ」。戦争の話はしてくれる。教官は果たして彼女らが貴重な話を自分ごとに出来ているのか悩む。当事者意識を持っているのか?と。インタビューしていても当事者意識を持って話を膨らませる会話が出来ないのだ。基本的な知識の欠如なのか、深堀りしていこうという意識の不足なのか?こうした彼女らのお気楽さ?が、インタビューを受ける人達を当惑させている状況も取り上げる。老人らはキャピキャピの女子大生、唇ピアスの女の子にバイアスを持つのは仕方のない、むしろ自然なことだろう。筆者も戸惑いながら観ていた。彼女らは純真なのか当事者意識を欠いた人たちなのか。
恋と戦争の仕上げはFM番組で取材した中身を学習させたAIの戦時中の女性との会話を放送することだった。録音の途中でPにダメだしされながらも何とか乗り切った彼女ら。SNSでの評価は「学生たちの自己満足」「ノー天気」などの厳しい声も多数あったようだ。この番組Dは教官に「戦争の本当に深いところに向き合っていないのでは?」と聞く。教官は「確かに。しかしこれはきっかけだから彼女らのこれからを見てみないと」と語った。これに東日本大震災の被災現場での聞き取りなどが続くが、むしろ戦争だけに絞ってしまったほうが番組のタイトルに沿ったのではないか。この番組から何を汲めばいいのだろうか。今どきの女子大生の気質か?教官の悩みか?今どきの若いもんは、なのか。番組としてのまとめが若干弱かった気がした。オープンエンドとしたかったのだろうか。筆者も彼女らにどこかにバイアスを感じつつ観ていたので、若い世代はどう観たのかとても気になった。
CBC「F××in’ Music よりそわない歌」は、かつて「絶叫する60度」という女性2人組ロックグループのドキュメンタリーを制作したロック好きなCBCクリエイションのP・Dが再び過激なロックを唄うデュオを取り上げた意欲作だった。最近中日新聞夕刊の芸能欄にも取り上げられるようになった奇妙な名前と不思議な関係を持つ「鈴木実貴子ズ」。名古屋をホームグラウンド(彼らが経営する小さなライブハウスというか飲み屋がある)とする。
女性は鈴木実貴子。作詞作曲、アコギ担当。男性は高橋イサミ(通称「ズ」)。ドラム担当で実貴子が作った曲のチェック係でもある。2人は2024年までは夫婦だった。今は離婚してパートナーとなっているがコンビと店はそのままだ。「名前が悪い」「現実みてうたえよばか」「外がうるさい」また番組タイトルとなっている曲など身も蓋もないタイトルの曲をメロディーラインがあるのか何なのか分からないメロディーに乗せて絶叫する。歌詞は実貴子自身のこと、または自身が感じたままを歌ったもので正直というか他人を考慮しない過激さがある。ライブハウスでは2人のサウンドに涙する若者も多い。シンパシーを感じるのだろう。「襟首を掴まれたような」「理解するのに時間がかかる」音楽で、決して大衆受けするようなものではない。しかし狭いライブハウスは満員だ。こうした需要があることと、彼らの歌の内容が、世相を反映していることを示す。
番組は歌作りで苦吟する2人、時にお互いに頼りつつ、時に激突する、そんな2人の関係を密着して取材している。ホリプロの堀ファウンダーに目を付けられスカウトされ、メジャーデビューし名前を知られていく過程で、決してメジャーではない跳ね返りの所で息をしてきた2人はどう判断するのか、も興味深い時間だった。2人は結構素のまま振る舞っている。制作者と対象者が信頼し合っているから近いのであろう。調理されない素材を投げつけられて何かを感じるかそうで無いかはお任せしますよ、という感じである。取材対象を考えると、下手に加工するより素材を投げつけたほうが分かりやすい、そう考えたのではないかと思えた。ナレーションは、朝ドラ「ばけばけ」のおさわさん、円井わん。ウケを狙ったのかも知れないが、彼女の個性を活かそうという試みは聴き取れた。
こうした「好きこそものの上手なれ」の番組を作らせてしまう風土はCBCの良き伝統なような気がする(時に背後から鉄砲を撃たれるが)。こうしてP・Dは人を見る目を、世間を見る目を養っていく。最近は1人でカメラを抱えて取材し、編集出来るので制作費も安上がりかもしれない。一方で個人に負担が大きくかかり過ぎる心配もある。そうしたトレードオフの関係を上司、編成はしっかりと把握しておかなくてはならないだろう。
NHK「映像の世紀バタフライエフェクト」についても書かせていただきたい。この番組を始め先日も書いたがNHKの尖り方は定時ニュースから受ける印象とは真逆。この時期に「化石時代に戻す」の東京大空襲を指揮したルメイを取り上げ、日本政府は彼に旭日大綬章を与えたこと、彼に対する授賞式を昭和天皇は拒否したことも放映した。また先日は昭和天皇の歩んだ道を前後編に分けて放送、これも綿密な取材に裏打ちされて見応え十分だった。ほぼアーカイブで制作されるこの番組は、外部プロダクションの力が大きいのだろうが、ナチス、移民、アメリカの本質などをえぐって見せていて筆者には現代社会における警報装置なのではないかと思えるほど貴重な存在である。NHKと外部プロダクションといえば中国取材に強みを持つテムジンが制作した「危険と表裏1万キロ・中国ドライバーロシアへ・人生かけた旅」は中国人ドライバーのロシア縦断運送ルポで極めて興味深いドキュメンタリーだった。片道1万キロ。戦時下のロシアへ。危険と背中合わせの道中。1人の中国人男性にスポットを当て、彼の家族や人生、彼の周辺事情、そしてロシアと中国という関係を炙りだしてみせた。シリーズ3作目だそうだが、非常にスケールが大きくダイナミックな番組だった。こうした番組を作れる放送環境をNHKは大事にしていかなくてはならない。(筆者がたまたま観たNHKBSスペシャル「モサド ポケベル爆発事件の真相」は観ているのが辛い番組だったが現在のイスラエルとヒズボラの関係を知る点で貴重な時間だった。)
最後に三重テレビ「LEGEND~よみがえる三重の偉人列伝~#7本田忠勝」について。三重県が生んだ偉人をシリーズで取り上げた教養番組で、昨年の4月から毎月1本土曜のG帯に9作放映された。関東近畿のかつての独立U局へ番販もしている。7作目本多忠勝の回は昨年10月が初出。中身はオーソドックスな偉人伝だが、司会の藤岡弘のカンペを見ない自分の熱い意見の吐露が凄かった。そしてエンドロールの名前にすべて三重テレビと入っているのが誇らしげだった。
極めて長い文になったが、今回観た、どの番組も特徴を持っていてGood jobだった。それ故感想も多くの番組に渡り、長くなってしまった。(一つだけ注文したいのは、深夜に放送するドキュメンタリーは予算の都合か字幕付与がないものが多い。何を語っているか確認したいときもあるので是非字幕は付けてもらいたい)冒頭にも書いたように、こうした番組が持つ意味、役割はまだまだ大きい。人々が知らない世界、知っていなくてはならない世界はたくさんある。これを掘り起こしてみせることは放送局の重要な責務だ。こうした番組がずっと作られていくことを心から願う。(KING)