密着チャント!特別編「SING TO LIVE」 

  • 番組名:密着チャント!特別編「SING TO LIVE」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:2020年5月31日(日)15時54分~16時54分

2019年5月に放送した前作「SING OR DIE」は一見バンドのプロモーション番組かと見間違えるほど「絶叫する60度」という秀逸なバンド名のボーカル二人の生きざまを追った粗削りだけどとても良い作品だった。マスク姿の「魁KAI」と「もんてろ」という女性ボーカル二人が心に複雑な背景を持ちながら、そして互いに「どちらかというと嫌いなタイプ」といいながら年間250本ぐらいのライブをひたすら行い、全国にファンを広げていくドキュメンタリーだった。曲も「ゴキブリ」では「叩かれて叩かれて それでも生きていく 逃げたって逃げたって 生きていく 孤独でも必死に生きていく」とハードロックを歌い、共感性が高い。このバンドはどうなっていくんだろうと高揚感をもって見た。そして、今回の続編。

KINGさんも言ってたように番組タイトルがいい。前回は「SING OR DIE」、今回は「SING TO LIVE」。

確かに歌うか、死ぬかという切迫感がある中で突っ走る「絶叫する60度」を描いた前作から、生きるためにあるいはライブのために歌うというのが一年後の二人の新たな展開。まさにフィクションより事態は動いてまさにドキュメント。

大きく変わったことの一つは、決してステージではMCをしなかった「もんてろ」がCD発売ツアー一発目の鹿児島でMCをした。CDの発売はランキングに入るほど好調だったのに鹿児島のライブハウスには観客34人。愕然としながらも二人はひたむきにライブを行うが、アンコールの時に「もんてろ」が悔しさを滲ませながら「マジで少ない、うちらはまだまだなんだと思う。ステージで生き続けたい!」と語った。「魁KAI」は「もんてろ」がステージでしゃべったことを喜んだ。それまでは楽屋に入っても挨拶もせず目も合わせなかった二人がその後のステージでは会話が少し生まれていき、目標が同じ方向に向いていると確信した瞬間だった。

そして二つ目は、その3か月後の6月、ホームページで「もんてろ」の入籍、妊娠が発表された。「人生を賭けてライブをしていくと言ってたのにがっかり」という「魁KAI」は幸せな事なのに喜べない自分にもいら立つ。また、「もんてろ」も「自分の甘さ、魁の居場所を失くした」と語る。そして一週間後、「絶叫する60度」の9月での活動休止が発表。

女性が活動していく上でで大きなテーマである結婚、子ども。もちろん女性だけのテーマではないのだが。年間で200本以上ライブをするバンドが走りを止めることは難しい。でも移動はバンドメンバーと別れてまで一人が良かった「もんてろ」が、人生を共にする伴侶を得たことは彼女の人生において大きな選択で会ったろう。そしてその結果である赤ちゃんと活動休止。

発表からしばらくたった時二人に別々にインタビューをした。そのコメントが二人の気持ちを素直に表していた。

「待ってくれると言ってくれた」「そう思ったけど、そうじゃないなと最近思った」「お母さんになる事によって優しい曲も作れるといい」「意識が子供に行ってる」「絶叫が一番幸せな場所なんで」「ライブが一番だったら結婚しちゃだめだ」と二人の中で意識や優先順位は変わる。二人のディレクターが連携して二人の対照的なコメントをとった。また畳みかけるようにお互いのコメントを見せていく編集は見事。二人の想いの方向が違ってきたのがスリリングに伝わる。

9月に行われたラストライブ。おそらく千数百人が入った観客の中には全国だけでなくイギリスやドイツからもやって来たファンがいる。ライブは終わり、「もんてろ」は「魁KAI」に手紙を渡す。

「絶叫する60度」の曲はハードーロックなのに詩が心に刺さる。「桜は二度散る そして二度咲く  終わりは人のあきらめが作る  何度でも何度でも咲けるように」

「魁KAI」は新しいバンド「天体3349」で活動を始めている。しかし、コロナ禍でライブハウスは現在閉鎖状態。この状況を番組の中に入れていったのも良いことだ。スタッフロールに14のライブハウスが協力として名前が出ていたけどすべてのライブハウスが生き残ることを切に望む。バンドマンのスギムさんのナレーションも淡々としているが乾いた情があった。さあ、彼女たち二人の音楽人生はこの後どう進んでいくのだろう。「魁KAI」は「ステージで待っている。生きて会おう!」と「もんてろ」に、そしてみんなにさわやかに言った。SING TO LIVE  生きていくために歌おう! 二人を、応援したくなる番組だ。

柴垣邦夫