「偽りのアサリ-追跡1000日 産地偽装の闇-」(CBCテレビ・ドキュメンタリー)

  • 番組名:「偽りのアサリ-追跡1000日 産地偽装の闇-」
  • 放送局:CBCテレビ
  • 放送日時:令和4年(2022年)3月30日(水曜日)午後9時00分~9時57分

CBCテレビ報道渾身の調査報道である。3年間もの間こつこつと取材を重ね、ついには国や県を動かした。筆者は「土が来る」の時も書いたが、調査報道の究極の成果は「行政を動かし、法律を変える」ことだと信じている。そうした意味から言えば、このアサリの産地偽装問題取材は一大スクープであり、あさりの産地偽装を世に問い、国を県を動かしたのだから、大したものだということが出来るのだろう。

しかし、この番組、どうもモヤモヤしてすっきりしない出来上がり(事件告発の成果のことではない。番組の出来のこと)となっていた感が強かった。時制が整理されていない感じ。おまけにドラゴンズ生情報が挿入され、番組の興趣を大いに削いだ。それと冒頭の大石アナのスタジオ部分は全く不要だ。あの時間を、以下にいう「時制」や「雑」の防止に使って欲しかった。

ローカルの報道番組のいちネタが全国放送されるに及び、国が慌てて動き熊本産アサリのDNA検査まで実施し、熊本県は県産のアサリの出荷を止めてしまったのだから、やっぱり全国ニュースにならないと事は動かないんだなあと名古屋的には萎える部分も感じる。CBCのネタがTBSに売り込まれ、農水省や熊本県へアプローチしたプロセスが今ひとつ見えてこないので、CBC独自取材というパンチが薄まってしまった感がある(ここも時制の問題)。なぜ今年1月になったら急にキー局や新聞社は飛びついたのだろうか。新事実発見取材の時制を意識した提示が明確でない。三年ぶりでCBCが報道に踏み切ったのはどんな決定打があったから、だというのか。直前のあの電話のやりとりか?三年前の取材では国や行政を動かすまでの決定的なものがなかったのだろうか。その辺りの経緯を知りたかった。熊本県は3年前にCBCの報道を受けて調査をした結果、3年前に既に産地偽装を把握していたというのだ。県知事も担当から報告が上がってこなかったという。確かに行政の怠慢を突いたところで報道の真骨頂は伺える。だが取材・放送の時制が明確でないので、そうだったのか!という納得性に満足感が得られない。恐らくこのあたりは最近になって分かった新取材により明らかになった新事実だったのだろう)

また、時制の問題もだが、全体の構成が雑に感じた。三年間の様々な事象(取材)を取捨選択するのは難しいだろう。だがそもそも、誰がこの問題を告発したのかの根本がよく見えてこない。映像の冒頭は三年前の熊本の海であり、その後、三河湾での「マンガ」によるアサリの収穫シーンが出てきて、愛知県はアサリの出荷日本一であることが説明される。だが店に出回るのはほとんどが「熊本県産」。ここで記者が疑問を呈するコメントを言うなりナレーションに言わせるなりしないと、事件発覚へとつながる端緒が分かりづらい。三河湾の漁協が困っているというシーンはなかったように思うし(三河湾の漁協は熊本の産地偽装を知らないわけはない)、取材の流れで新事実が発覚した!というインパクトある説明もあったのかなかったのか。恐らく制作者は、これまで筆者が指摘してきたことは全部きちんと説明しているというだろう。ならばなぜ筆者が理路が整然としないこんな吹っ切れなさを受けたのだろうか。やはり全体の構成がうまく行っていない(長時間かけたスクープを腐しているわけではない。それはそれで立派な事で賞もとれるとくダネだろう。)だが番組としてもしコンテストに出品するとすれば、もう少し構成をしっかり組み立て直したほうが良い。(実はホームページの説明のほうがスッキリ説明が出来ていたりする)

熊本県で偽装で逮捕された人物が時々語るし、中国産として売っていく苦悩も描かれるが、そもそも吉川なる人物が2020年に産地偽装に関わる脱税の罪で逮捕・起訴され執行猶予付きの有罪判決を受けていという説明はあるもののそこで産地偽装という大事件がなぜニュースにならなかったのか、ここもよく理解が出来なかった。RKK熊本放送報道部に尋ねても良かったのではないか。吉川社長が「熊本県産のアサリのほぼ100%は中国産」と語っている背後にある社会的影響の大きさが見えてこない。

吉川社長ら有志は中国産は中国産として売り出すなど試行錯誤しているが、中国産と表記されただけで消費者は敬遠する。さて・・・。

番組ではなぜ中国産を日本の消費者が嫌うのか、を取材していない。海産物だけではなく、かつては畜産物や農産物でも中国産の信頼をなくす事件があったのだが、それは出て来ない。一方、中国から輸入されるアサリは貝毒や残留農薬の検査を受け、基準を満たしたものしか流通しないということは説明される。だから中国産といっても国が安全を認めた食品なのだ。別に危険な食べ物ではないのだ。実はそこに偽アサリ問題の真の問題点が横たわっているのではないか。

スーパーへ行くと分かるが、日本のスーパーで売られている生鮮品は多くが(ほとんどいってもいいくらい)輸入だ。肉や魚だけではなく野菜も果物も(かぼちゃ、アスバラはメキシコ、レモンはアメリカ、ニンニクは中国などなど枚挙に暇がないほど)もちろん国産もある。そうした日本の生鮮食品事情まで深掘りして欲しかった。ラストコメント「いつか再び偽りが・・・」は、いかがなものか。調査報道のドキュメントの場合、ラストコメントには十分に注意した方がいい。問題の在り処をあいまいにしかねないからだ。

あれこれ言ったが、3年間執拗に一つのネタ(疑問)を負い続けた記者、それを続けさせたデスク・部長の根性と辛抱は大いに買いたい。実は筆者は最近の「チャント!」の6時15分すぎからのハードな取材に希望を持っているのだ。(KING)